「接客とはナンパである」
これを聞いて、今あなたはどう思われましたか?
「仕事がナンパって、どういうことよ!?」とお思いになるか、「そうそう、私たちの仕事ってナンパと共通点があるよね!」とお思いになるか。確かに、私たちがしているのは「接客」であって「ナンパ」ではありません。ですが接客もナンパも、100人に声を掛けて100人と会話を楽しむことができるというのは至難の業で、「お声掛けをする人数とお買い上げになる人数にはある一定の確率が存在する」という、この確率という一面において接客とナンパには共通点があると思いませんか?
お客さまに声を掛けても反応がない場合、お声掛けから接客に入ることができてもお買い上げにつながらない場合ってありますよね。でも、プロは決してめげたりへこんだりしないのです。そこには一定の確率が存在するので、100人のお客さまがお買い上げにつながらないことをよく知っているからです。どうかこの講座を読むことで、恐れずにお声を掛け、それを楽しみ、お客さまとの関係づくりが濃いものになっていき 、そして売上げが加速度的に上がっていくイメージを描いて実践しましょう。
「観察力」をトレーニングで鍛える
結論から言います。絶妙のタイミングでお声掛けをし、接客トークへ入っていくには「観察」あるのみです。お客さまを徹底的に観察します。ただし、観察していることに気付かれると「あれ?見られてる?」もしくは「何見てるのよ」とお客さまを不快にさせるかもしれないので、くれぐれも「見ていないふりをして徹底的に観察する」ことが重要です。
見ていないふりをするにはポイントがあります。それは横目で見るのでも、正面からじっと見るのでもありません。サッカーの中村俊輔選手のコメントですが「ピッチでプレーしている自分や他の選手を観客席からの視点で見ている」、この視点に似ています。入店したお客さまが何を見て、何に触って、どこを通って、今また何を見ているのか、これを直接見て観察しているのではないけれど、しっかりととらえているのです。これはトレーニングでできるようになります。
今、目の前にあるこの雑誌の文字に目を置きながら、雑誌の周囲にあるものを見てください。文字を読んでいるので周囲のものとは焦点が合わず、具体的に「見る」ことはできませんが、大体の「輪郭」や「色」「距離感」は把握できると思います。そうです、直接お客さまを見ずにお客さまの位置や動きをとらえる視点、これが基本です。ただし、10秒に1秒はお客さまを直接見て「あなたがいらっしゃることには気が付いていますよ。何かあったら声を掛けて」と笑顔でメッセージを送ります。
このトレーニングを日々行うことで、後ろのお客さまの気配も、数人のお客さまがいらっしゃっても同時にとらえることもできるようになります。その観察には2つのポイントがあります。ここでは、お客さまをじーっと見るのではなく、トレーニングの合間に1秒直視する中で観察します。
お客さまの持つ「物質的情報」を観察する
ここで言う「物質的情報」とはお客さまの「持ち物」、そして「体」です。まず、お客さまの持ち物から見てみましょう。身に着けているすべてのもの、服、バッグ、靴、タイツ、アクセサリーなど、あらゆる「持ち物」を観察することで、次の3つの情報を収集することができます。
1.職業・属性
2.好み
3.読みそうな雑誌
まずは「職業・属性」。学生かOLか、会社員かそれ以外か、独身か既婚か。そこからどんな日常の生活パターン、生活シーンを持っているのかを推測します。OLなら平日と休日の服装の使い分けを持っているかもしれないし、お母さんであればお子さんの学校に出入りするのに必要な服と普段使いの服に幅が必要かもしれない……というように、今目の前にいるお客さまの日常の生活シーンを予測することで、必要なシーンに応じたものをお勧めすることができます。また1点お売りするにも、着回しの幅を的確にイメージしていただくトークができますから、説得力に差が出ます。
次に「好み」です。お客さまが今着ている服からおおよその好みを推測します。服の色・柄、スカートの丈、パンツの太さ、バッグの大きさ、靴のヒールの高さなどから、好き嫌いにおおよその見当をつけます。お客さまにとってなじみがあるものとチャレンジに値するものを整理しておくことで、お勧めのトークがよりお客さまの気持ちにフィットしたものになります。
そして「読みそうな雑誌」。これは仕事で推測した生活パターンと好みから、お客さまの着こなしの基本になっているであろうテイストを予測するのです。同じアイテムでも、コーディネートの仕方でイメージが変化するものですよね、その雑誌にありそうなコーディネートのバランスでお勧めすることで「そうそう、こういう着方!」と納得いただける度合い、説得力が全く変わってきます。
次に「体」から、これら3つの情報を収集します。
1.サイズ
2.表情
3.チャームポイント
「サイズ」では、自店のサイズ展開のどのサイズに当たるのかを読み取ります。毎日見ていると、お客さまのサイズをズバリ当てられるようになります。お客さまにサイズを伺わなくても合うサイズをお勧めできること、サイズに見当をつけておくことで、サイズが欠けた商品よりも先にお客さまのサイズがある商品からお勧めすることが可能になります。
そして「表情」。一人で商品を見ているお客さまはたいてい無表情ですが、接客を始めると、笑顔になるとすごくかわいいお客さまっていらっしゃいますよね。無表情のときの顔の筋肉の付き方を見ると、おとなしいキャラクターの方よりもよく笑う方は凹凸があり、悩みやすい方は眉間にしわがあるなど、隠されたキャラクターは筋肉に表れます。接客に入る前のお客さまの表情に惑わされずに、時には元気良く、時には穏やかに、お客さまに合わせたトークができます。
そして「チャームポイント」。お客さまは褒めて差し上げても謙遜されるものですが、接客の中で取って付けたように言われても、お客さまも敏感ですから気が付きます。あらかじめこのお客さまの「かわいい!」「スタイルがいい!」「ヘアスタイルが似合っている!」などを見つけておくと接客の中でスムーズに言葉にでき、そのチャームポイントを生かしたスタイリングを提案できます。
お客さまの持つ「動作的情報」を観察する
お客さまは動きの中でさまざまな情報を提供してくださいます。服飾雑貨の場合、何を買うか目的を持って来店されるのは全体の8%であるというアンケート結果があります。92%が衝動買いということは、お客さまが商品を欲しくなるのはいつかを見極めるのに、お客さまの目の動き、手の動き、歩くスピードなどをよく観察しておいて接客につなげていくことが欠かせません。お客さまの動きを観察するポイントは3つあります。
1.スピード
2.角度
3.手
「スピード」では、お客さまの歩くスピードから、何かを急いで探しているのか、散歩するように見て回っていることを楽しんでいるのかを読み取ることができます。何かを買わなくてはならなくて急いでいる方にはスピーディなトークで商品を次々お勧めして、もし自店になければ次の店へ行っていただくこともサービスですし、気持ちのいい接客だと記憶に残り、将来の再来店へつながるものです。また、ゆっくりとご覧になっている方にいきなり商品説明を始めるのは、煙たがられる確率が高いと言えます。
「角度」では、お客さまが商品を見ている、商品と向き合っている角度を観察します。歩きながら斜めに商品を眺めている状態は、まだ接客に入るには時期が早いと言えます。商品に対して体を正面に向け、立ち止まって商品を見ている状態は商品に興味があるときの角度です。眺めているのか、選んでいるのか、同じ見るでも角度に差があるのです。
そして「手」。お客さまが触ったアイテム、触った場所をよく観察しておきます。コートを触って、また別の場所でコートを触っていればコートに興味がある確率が高く、羽織るものについての接客から入ると反応がいいかもしれない!と予測できます。またお客さまがよく触る場所を特定できると、売りたいものをそこで見せて売り込むことができます。
[記事提供元]ファッション専門店の20~30歳代ショップスタッフに支持されている月刊総合専門誌「ファッション販売」
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