日本で初めてフェアトレード事業を始め、現在は地域の諸問題を事業で解決するコミュニティトレードに取り組み、生産者のパートナーとして切磋琢磨することで商品を生み出している「第3世界ショップ(プレス・オールターナティブ)」さん。

最近では、より多くの人に商品の魅力や背景にある取り組みを知ってもらおうと、唯一無二で魅力的なデザインパッケージの「ARTISANシリーズ」も展開し、スーパーデリバリーでも人気となっています。

ユーモアも織り交ぜつつ真摯なものづくりを続ける「第3世界ショップ(プレス・オールターナティブ)」さんの商品の背景や具体的な取り組みについて担当の勝田さんにお聞きしました。

フェアトレードだけでなく国内外のあらゆる問題を事業で解決する「コミュニティトレード」でものづくり

──第3世界ショップのプレス・オールターナティブさんと言えば、カレーやコーヒー、チョコレート、調味料といった食品と、ニットや手工芸品など雑貨というイメージがあります。会社のスタート時はどんなものを扱っていたんですか?

勝田さん:コーヒーの取引からスタートしました。1985年にプレス・オールターナティブが設立されて、翌年1986年にフェアトレード事業の「第3世界ショップ」を設立しています。コーヒーのほか、今でも取り扱いが続いているインドのミラー刺繍やインドの山羊革の製品もありました。

──日本で初めてフェアトレード事業をスタートしたんですよね。いまは国内の地域の問題を事業で解決していく「コミュニティトレード」としてフェアトレードも含めものづくりをされているとお聞きしています。

勝田さん:フェアトレードは、一般的に立場の弱い発展途上国の生産者や生活改善の自立を目指す貿易の仕組みで、発展途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入することを目的としています。もちろん発展途上国の人々の生活を向上していくフェアトレード事業も大切に続けていますが、国内にも問題はありますし、貧困以外にも解決したい課題があります。

日本国内では山口県宇部市で、耕作放棄された農地を若い人と一緒になって再生し、持続可能な農業などを行う「楠クリーン村」に取り組んでいます。こうした”地域の困った”を事業を通して解決する「コミュニティトレード」を国内外で行い商品づくりにつなげています。

中心となって農園の運営をしている今井夫婦

──困っている人たちと一緒になって事業として解決を目指すんですね。

勝田さん:支援ではなく対等なパートナーとして解決を目指しています。現在はアジアの国々でそれぞれの地域の問題を解決するためのコミュニティビジネスに取り組んでいます。

事業がうまくいき、自立し向上心も持てれば新たな事業の発展も生まれると思いますし、それが新たな雇用や事業につながればと願っています。一時的な支援ではなく、現地のスタッフが主体となって事業を始められるように、お互いに知恵を出し合いながら協働することを大切にしています。

原材料や生産工程に徹底的にこだわるけれど、認証マークを必須としない理由

──第3世界ショップの商品には、農薬や化学肥料の不使用などの説明が書いてありますが、フェアトレードやオーガニックなどの認証マークをあまり見かけません。認証マークが無いのは何か意図があるんでしょうか?

勝田さん:輸入事業者として2020年に有機JAS認証を取得していますが、認証マークがすべての商品に付ける必要があるとは考えていません。

認証マークがあることで分かりやすくなり、より多くの人にオーガニックやフェアトレードであることを知ってもらいやすくなるというメリットはあると思います。なので、チョコレートについては有機JAS認証のマークを付けており、より多くの方に商品のおいしさや魅力を知っていただくために活用しています。

ただ、認証の取得にかかる時間やコストは大きいので、どうしても商品価格に転嫁せざるを得なくなってしまいます。価格が上がって手軽に買えない価格になってしまうと、売上が減り、生産者に還元することが難しくなります。事業として売上をつくり、生産者に安定して継続的に還元していくことを優先的にしているというのが認証マークを必須としていない理由です。

認証マークがなくても、第3世界ショップの商品の生産者が誰なのか、どこでどのように生産過程を経ているのかは説明できますし、作り手が見えてくる商品しか取り扱っていません。弊社の考え方、ものづくりのプロセスを知っていただいた上で仕入れていただけたらうれしいですね。

有機JAS認証マークがついている生産者の顔が見えるチョコレート

想いをつなぐ20年つづく「カレーの壺」シリーズ

──続いて人気商品についてお聞きしたいと思います。ロングセラーでの人気商品と言えば「カレーの壺」でしょうか。20年ほどの歴史ある人気商品ですよね。

勝田さん:はい。数年前にパッケージもリニューアルした人気の商品です。

──カレーの壺はどういった商品ですか?

勝田さん:カレーの壺は、スリランカのマリオさん一家の工場から届きます。マリオさんは日本の企業で働いていた来日経験のある方で、日本のカレーのルゥに出会い、スリランカでカレーペーストを開発しました。

開発当時のスリランカでは、スパイスは各家庭で調合するのが当たり前のように考えられていたので、マリオさんがつくったカレーペーストは長時間のキッチン労働から女性を解放する画期的なアイテムとして熱烈な支持を受けたんです。

マリオさんは「スリランカを世界一のスパイスの基地にしたい」と、ビジネスを通してスリランカの人々の生活向上に役立てたいと奮闘していて、そんな折にマリオさんと出会いました。

スリランカは北海道の8割くらいの国土の小さな国で、スパイスの生産は盛んなのですが、小さな農家がつくるスパイスは安値で買いたたかれるのが当然の時代でした。マリオさんはこの状況を打破しようと、品質の良いスパイスづくりを広め、農家の収入を安定的に増やしていくことで農家の自立を促したり、工場の従業員の福利厚生や地域の発展のために活動されています。

──カレーの壺で人気の商品を1つだけご紹介してください

勝田さん:そうですね…。「カレーの壺マイルド」はお子様も食べられる辛さなので、家族で食べられる安心の味わいという意味で人気ですね。小麦粉も入っていないですし、安心して食べられる原材料で作られているというのも魅力です。
ちなみにカレーの壺ペーストは試作を重ね日本人の好みに合わせながらも本格的なスリランカのスパイスカレーが楽しめる調合になっています。

──カレーの壺が人気の理由はどこにあると思いますか?

勝田さん:弾けだす「香り」ですね。日本だとルゥが主流なのでペースト状であること自体が珍しいと思います。ルゥではなくペーストにしてあるのは、”炒める”ことでスパイスの香りのすばらしさを楽しめるからです。一般的なカレーのルゥは溶かして作りますよね。スリランカのカレーはスパイスを炒める工程は欠かせませんし、この炒めの工程こそ本格的なカレーを召し上がっていただけるポイントだと思います。

第3世界ショップといえばこのデザイン、看板商品の「ARTISANシリーズ」のフェアトレードチョコレート

2023年のARTISANシリーズで特に人気だった猫のデザイン

──もう一つ、第3世界ショップの商品と言えばこれ!というのがパッケージデザインが目を引く「ARTISAN(アーティザン)シリーズ」ですよね。こちらはどういったきっかけでできたシリーズでしょうか?

勝田さん:ARTISANシリーズは、第3世界ショップのフェアトレードチョコレートをもっと多くの人に広めることができないかと考えている中で、福祉施設兼アトリエを構える「嬉々!! CREATIVE(キキ・クリエイティブ)」さんと出会い、「うちのイラストをパッケージにしてみませんか?」というご提案から誕生しました。

ARTISANシリーズはまずその見た目のかわいさが魅力です。フェアトレードチョコレートやオーガニック紅茶など原材料や生産過程などにこだわって作られた商品に「嬉々!! CREATIVE」さんのアートデザインの魅力が加わった、中身も外側も魅力的な商品です。フェアトレードチョコレートはすでに20年を超える看板商品でしたので、「嬉々!! CREATIVE」さんの唯一無二のアートデザインパッケージが加わったことで、それまでのお取引先様以外にも販路を広げることができたシリーズです。

──本当にとっても魅力あるデザインですよね。デザインをしている「嬉々!! CREATIVE」さんについても教えてください。

勝田さん:嬉々!! CREATIVEはさんは、さまざまな障がいを持った人々が好きなこと・得意なことを通して、クリエイティブな活動をされています。神奈川県平塚市に福祉施設兼アトリエがあるんですが、カフェギャラリーも併設されているので、実際に作品を見ることもできるんですよ。

──ARTISANシリーズですが、新作の烏龍茶やコーヒーや紅茶などもありますよね。他の商品と組み合わせる売り方もできますし、プレゼントとしてもらった側も「かわいい!」となると思います。

勝田さん:そうですね。ARTISANシリーズは他にはないデザインが魅力ですし、できるだけより多くの嬉々!! CREATIVEさんのデザインを使って商品を作っていきますので、次の商品がどんなデザインになるか楽しみにしていただけると嬉しいです。

商品に興味を持ってもらい「共感」してもらうための商品開発や情報発信

──途上国の貧困だけでなく、国内の農地の問題やいろんな人々が社会的に活躍できる場をつくったりと、本当に幅広い取り組みをされていますよね。その考え・想いの根幹とは何でしょうか?

勝田さん:第3世界ショップが目指すのは、行政に頼らずに協働の力で社会を変えていくことです。商品を手に取ってくださった方一人ひとりが、取り組みを応援してくれるパートナーだと思っています。

──なるほど。仕入れで商品を買ってくれた方も「パートナー」という考えなんですね。

勝田さん:だからこそ、商品に共感してもらうのはとても大切です。問題を解決し、事業を通して社会を変えていく弊社の考え自体に共感いただけことも、商品が「かわいい」「おいしい」といったことから興味を持っていただき、手に取ってもらえる共感もどちらも大切です。きっかけはエシカルな部分からでも、おいしさや見た目でもいいと思います。お客様が商品を通じて作り手が置かれている環境や気持ちに思いを馳せていただくことが、第3世界ショップの目指す社会の実現につながっていくと思います。

──具体的な取り組みについて、教えてください。

勝田さん:最近だと、カンボジアで地域の若者たちと協同で行っているカシューナッツのプロジェクトがあります。

カシューナッツプロジェクトで作られたカシューナッツが入っている「よくばりナッツ」

──カシューナッツのプロジェクトってどんな取り組みですか?

勝田さん:カンボジアでは高校進学は都会に出る必要があります。地元を離れ高校に行くにはお金がかかりますので、寮を無償提供する取り組みをしています。寮の無償提供の代わりにカシューナッツづくりをしてもらうのですが、ただカシューナッツを栽培するだけでなく、加工や輸出までのビジネスの一連を高校生など若者が担っています。勉学の機会をつくるだけでなくビジネスの経験ができることで、今後カンボジアの社会を作っていく若者たちの経験に生きてくると思っています。

実は4月にこのカシューナッツプロジェクトの若者が来日して、現地の伝統舞踊であるクメールダンスを披露するツアーがあります。また、若者たちが作った劇も発表予定です。1990年代、カンボジアは民主的な選挙が行われたのですが、その時殉職された日本人の方との関わりを題材にした内容です。平和や異文化について描かれています。

──栽培など生産や加工するものづくりだけではないんですね。

勝田さん:そうですね。お互いの文化や歴史を共有することもコミュニティトレードの中で大切なことです。さまざまな取り組みの中でお互いに学び合い、多様な価値観を養っていきたいと考えています。いろんなきっかけ、機会を設けることで、取り組みを共にする仲間を増やしてお互いに協力して、おもしろいものを生み出していきたいと思っています。

──原材料の調達から加工の工程、さらにはパッケージデザインにもこだわった商品があるなど、一口でいろんな人たちの顔が思い浮かんできそうです。最後にメッセージをお願いします。

勝田さん:取引先のお店の方々に共感してもらい、さらにはその先の店頭で消費者の方に共感をしてもらうためにも、商品の魅力、情報をまとめたPOPを積極的に提供しています。出荷の際は最新のPOPを同梱しています。届いた商品をすぐに店頭に並べられるように、切って使える短い説明文入りのプライスカードもご用意していますので、店頭で消費者の方にも「共感」いただけるように、売り場づくりにぜひお役立ていただけるとうれしいです。

──持続可能な生産やパートナーとして事業を通して問題解決に取り組む貴社の特徴も知っていただき、おいしくてエシカルな商品の魅力をより多くの人に知っていただきたいですね。勝田さん、ありがとうございました。

第3世界ショップ(プレス・オールターナティブ)