整体院の開業に向けて、多くの方が「開業にはどんな手続きが必要なのか?」「資金調達はどのようにすれば良いのか?」「整体院に必要な資格はあるのか?」といった疑問を感じるのではないでしょうか。ここでは、整体院を独立・開業するために必要な「開業手続き」「資金調達の方法」「必要な資格」についてご紹介します。

整体院を開業する前に必要な手続きと計画とは?

整体院の開業には、整骨院・鍼灸院などの国家資格を持つ業種とは異なり、保健所への届出といった特別な届出は必要ありません。しかし、事業を開始するにあたって必要な「開業届」や「青色申告承認申請書」といった届出を税務署へ提出する必要があります。また、開業する前には事業内容や計画を説明する「事業計画書」といった書類も用意しておくと、融資を受ける場合やご自身での数字計画を把握するのに役立ちます。開業する前に確認しておきましょう。

開業届を税務署に出しに行く

「開業届」とは、事業を開始するにあたって税務署へ提出する書類をいいます。個人事業の開業届は2種類あります。

1.「個人事業の開業・廃業等届出書」・・・事業を始めたことを税務署に届け出る書類です。開業日から1ヶ月以内に管轄の税務署宛に提出することが推奨されています。

個人事業主の場合、所得税の納付はご自身で確定申告を行う必要があります。この届出を提出しなくても罰則はありませんが、整体院の開業では青色申告で確定申告を行うのが一般的なため、「 個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)」と「青色申告承認申請書」の提出が必要になります。

また、開業届は基本的に本人が税務署へ提出する書類になります。本人確認のために必要なマイナンバー(個人番号)を記載する欄もあるので、準備しておきましょう。

2.「個人事業税の事業開始等申告書」・・・「個人事業税の事業開始等申告書」は、事業を開始したことを申告するために、都道府県税事務所に提出する書類です。各都道府県によって提出先や提出期限に違いがあります。東京都の場合は事業を開始した日から15日以内に、都税事務所に申告書を提出します。

また、都道府県税事務所だけでなく自治体によっては区市役所にも提出が必要なところもあります。事前に確認しておきましょう。

(情報参照元:freee/開業の基礎知識より)

事業計画書を書く

「事業計画書」とは、どんな事業内容なのか、どのような計画や戦略で進めていくのか、といった主観的・客観的にみて説明できる書類をいいます。必ずしも必要ではありませんが、事業を成功させるために大切なツールとして役立ちます。事業計画書を書くことで、どのようなメリットがあるのか以下にポイントをまとめました。

【1】コンセプトや事業内容を明確にできる

「お客様に親しんでもらえる整体院にしたい」「お店のコンセプトはこうしよう」など想像したり、アイデアが浮かんだり、開業前はたくさんのことを思いつくことかと思います。また、整体院を開業するにあたり、そのためのスキルや経験があるか?他店に比べてサービスは十分か?初めの集客はどのように行っていこうか?など、頭の中だけで考えるのには限界があります。事業計画書を書くことにより、自分のやりたいことやコンセプト、事業内容やこれからの行動計画が整理されて明確にできるメリットがあります。

【2】数字計画を把握できる

コンセプトや事業内容に対して、数字計画は具体的に意識していかなければなりません。客単価や来店数はどのくらいで、売上高はどのくらいあり、家賃や人件費、広告宣伝費やその他経費(消耗品費や通信費など)のコストを差し引いたら、利益はどのくらいになるのか?特に、その他経費に関しては「エアコンが故障したから修理が必要」「パソコンが壊れたから買い替えないとならない」といった突然の出費に備えて、少し多めに設定しておくと良いでしょう。そのような数字計画をつくることによって、数字の動きを把握することができるのはもちろん、やむを得ず廃業しないといけない、といったことは避けられます。

【3】金融機関からの資金調達に役立つ

事業計画書をつくると、売上高や利益の計画が他者から見てもわかるようになるため、開業前に必要な資金調達などがしやくなるといったメリットがあります。金融機関から見て「将来性や信頼性があるか」「売上・収益性は見込めるか」といった内容がきちんと書かれていて、事業計画が伝わるものを提出するようにしましょう。

【4】協力してくれる仲間を得られる

整体院を開業する際に、はじめは一人で運営される方が大半かと思います。しかし、店舗運営をするには協力してくれる仲間も必要です。ここでいう仲間とは、一緒に働くスタッフに限らず、あなたのお店を魅力的だと感じ、将来性や成長性が高いと感じて協力してくれるパートナーも含みます。事業計画書は、そういった「協力してれる仲間」を得るためのツールとしても役立ちます。

開業する上で気になる整体院の開業・廃業率

整体院を開業する上で気になってくるのは「どのくらいの人が開業をするのか?」や「開業を考えているけれど、廃業率が気になる」といったことではないでしょうか。

厚生労働省のデータによると、2020年に開業した整骨院・鍼灸院・あん摩マッサージ院・その他のマッサージ院の数は約14万1,000か所となっており、全体の増減率は+0.3%となりました。全国のエステサロンでは約2万店であることから、約5倍以上の数になります。こうしてみると、整体院などのマッサージ業もニーズがある業態だということがわかります。

(情報参照元:厚生労働省

一方で2018年の「マッサージ業・接骨院等」の廃業は93件(前年比36.7%増、前年68件)、2009年以降の10年間では過去最多となっています。2019年以降はコロナ禍により情報は公開されていませんが、データから見ても厳しいのが実情です。また、2020年にはコロナ禍による客足の減少から閉店を余儀なくされる店舗が多発しました。

しかし、コロナ禍以降はリモートワークの増加で、運動不足からくる肩こりや腰痛といった身体の不調に悩む人が増え、マッサージや整体、整骨院を「利用している」という人の割合も多く、ニーズのある業態であることは確かです。整体院もそのひとつ。廃業を防ぐためには、開業前の準備はもちろん、他店との差別化を図ったサービスの提供や強みを意識した店舗づくりを目指しましょう。

(情報参照元:東京商工リサーチ/中小企業基盤整備機構

整体院オープンに向けて必要な開業資金

整体院をオープンする上で真っ先に考えるであろう「開業資金」。どのくらいの資金が必要なのか、それぞれの資金の目安についてご紹介します。

物件別の「初期費用」のめやす

整体院を開業する場所や規模によっても、かかる初期費用は変わってきます。以下に、物件別の初期費用の目安をまとめました。

【1】自宅開業の場合

自宅で開業する場合には、家賃などの物件にかかる費用が発生しないため、開業時に必要なマッサージベッドタオルまくら・マット・カバースリッパ加湿器ディフューザーなどのインテリア、衛生用品掃除用品伝票・領収書など最低限必要な備品を用意するだけで済むため、初期費用のコストが抑えられるメリットがあります。

一方で、自宅開業にはデメリットもあります。例えば、一軒家で二階に店舗をかまえる場合には、普段生活で使用している玄関や階段をお客様が通ることになるため、配慮が必要になります。あまりにも生活感があるような空間では、お客様が不快な思いをしてしまう可能性があるからです。また、自宅開業は表に看板が出せないこともあります。一軒家の場合は近隣の方の理解を得た上で、看板を出すことは可能ですが、マンションの場合は事業用の賃貸物件でないと出せないといった制限があります。そのため、店舗物件のように大きな看板が出せないなど、集客しづらい面もあります。メリット・デメリットを踏まえ、お客様を快適にお出迎えできる店舗づくりを意識しましょう。

【2】ワンルームマンションの場合

ワンルームマンションなど、マンションの一室を借りて整体院の開業を考えている方もいることかと思います。もちろん、そういったワンルームマンションのような物件を借りて開業することも可能です。ただし、その場合には「敷金・礼金」「前家賃」「仲介手数料」「火災保険料」などが必要になってきます。月額賃料が10万円だった場合の物件にかかる費用の目安は以下になります。

敷金:10万円×2ヵ月分
礼金:10万円×1ヵ月分
前家賃:10万円×1ヵ月分
仲介手数料10万円×1ヵ月分
火災保険料:1万円~2万円

物件にかかる費用は、ざっくり50万円ほどの計算になります。それに加え、設備・備品類などの費用が約50万円~100万円くらいで見積もると、物件と設備・備品類を合わせておよそ150万円は初期費用が発生すると考えておきましょう。

【3】小規模な店舗物件の場合

店舗物件を借りて整体院を開業する場合には、ワンルームマンションのような住宅物件とは異なり、「敷金・礼金」に加え「保証金」が発生します。保証金・敷金は家賃の約3~15ヵ月分くらいが目安になります。店舗用として運営することが前提になるので、内外装の工事が発生した場合は原状回復費用が発生することや、家賃の滞納に備えて設定されているため費用が高額になります。ワンルームマンションと同じく、月額賃料が10万円だった場合の物件にかかる費用の目安は以下になります。

保証金・敷金:10万円×10ヵ月分
礼金:10万円×1ヵ月分
前家賃:10万円×2ヵ月分
仲介手数料10万円×1ヵ月分
火災保険料:1万円~2万円

店舗物件にかかる費用は、ざっくり140万円ほどの計算になります。設備・備品類はワンルームマンションと大差ありませんが、少し多めに120万円で見積もると、物件と設備・備品類を合わせておよそ250万円を超える初期費用が発生すると考えておきましょう。

「資金調達」の方法

整体院を開業するための資金調達の方法は、大きく分けて3つあります。それぞれの特徴についてご紹介します。

【1】貯金で貯めた自己資金

自分で資金を貯めて、整体院を開業する方法です。自己資金だけで開業を考えている方は「初期費用の目安」でも前述した通り、ワンルームマンションを借りて開業する場合でも最低150万円は必要になると考えておきましょう。ただし、150万円で整体院の開業はできても、日々の運営で必要な資金は別途発生してきます。その辺りも踏まえ、準備をしましょう。

【2】金融機関などからの融資による借り入れ

整体院を開業する際、自己資金のほかに「融資」や「借り入れ」をするといった方法もあります。整体院などの個人事業主の方が融資を受ける際に一般的なのは「日本政策金融公庫」という国が100%出資している政府系金融機関があります。「日本政策金融公庫」は銀行や信用金庫とは異なり、個人事業主や小規模事業者が担保や保証人なしで低金利で融資を受けらるといった制度があります。融資を希望する場合には「申し込み時期」「経歴」「自己資金の要件」「事業計画書の準備」など、さまざまな条件があるため、事前に確認しておきましょう。

(参考:日本政策金融公庫HP

【3】自治体からの助成金・補助金

整体院の開業など、個人事業主を支援する「助成金制度」や「補助金制度」を利用するといった方法もあります。どちらも返済の必要はありませんが、目的や条件が異なります。「助成金」は、厚生労働省が管轄で受給要件によっては、利用することができます。しかし、すべての個人事業主が利用できる制度ではありません。「助成金」は一定の基準を満たすと審査が通る確率が高く、支給額も大きいといった特徴があります。一方、「補助金」は経済産業省の管轄で、要件を満たしていれば申請することが可能です。しかし、申請者の倍率が高く書類審査や面接があるので落選することもあります。「補助金」は支給額が大きく、経費の適用範囲が広いのが特徴です。どちらも、整体院の開業時に役立つ制度です。最適な制度を調べて活用しましょう。

(情報参照元:創業手帳/補助金・助成金

「内装工事費」のめやす

整体院を開業するにあたり「内装工事」が必要になるケースがほとんどです。「内装工事には一体いくらかかるの?」と不安を感じる方も多いのではないでしょうか。規模や広さ、どこまでこだわるか、などで内装工事費も当然変わってきます。まずは数社から「相見積もり」を取り、検討していきましょう。同じ内装工事費でも、業者によって大分変わってきます。できるだけ工事内容が細かく記載されている見積もりを出してもらうと、他社との比較がしやすいのでおすすめです。

自宅で整体院を開業する場合、物件にかかる費用は必要最低限の備品だけで内装工事費を抑えられるメリットがあります。一方、賃貸物件や店舗物件で整体院を開業する場合、内装にかかる平均相場は、およそ1坪あたり20万円~30万円といわれています。また、店内をおしゃれな雰囲気の内装デザインにこだわるなど、グレードを上げた場合には、およそ1坪あたり30万円~50万円ほど必要になってきます。あくまでも目安ですが、開業時の資金計画の参考にしてみてください。

「設備・備品」にかかる費用

整体院の開業に必要な「設備・備品」。整体院は整骨院とは異なり、特別な治療器などは必要ないため大きいものでいうと施術ベッド(マッサージベッド)、タオルやシーツ、レジスター用品、日常的に使う消毒用品や事務用品といった備品類が最低限必要になってきます。この中で、施術ベッド(マッサージベッド)がもっとも高額な設備用品になり、相場はおよそ3万円~10万円前後となっています。ベッドを置く台数によってもかかる費用はかわってきますが、ベッドや諸々の設備・備品にかかる費用は100万円はみておくと良いでしょう。「意外とかかってしまう」と感じてしまうかもしれませんが、開業計画の段階で入念に計画を立てていても、後から「あれも必要、これも必要だった」といったことがたくさん出てきます。余裕をもって予算を組んでおきましょう。

「運転資金」も含めた計画を忘れずに準備をする

整体院を開業するときにはどうしても、物件や内装、備品を準備することで頭がいっぱいになってしまいます。開業までの準備や資金計画は完璧でも、そこに集中してしまっては本末転倒です。整体院を開業した直後から「満員御礼」なんてことは少ないので、最低でも半年間は開業後にかかる必要な経費や、集客に必要な広告費などの「運転資金」も含めて準備しておきましょう。特に、広告費は新規オープンの初月にもっともかけたほうが良い費用です。はじめてのお客様に「新しく近所に整体院がオープンしたから行ってみよう」といった認知・集客につながります。

整体師に必要な資格とは?代表的な資格をご紹介

整体師になるためには、医療行為を行える「柔道整復師」「あん摩マッサージ指圧師」「鍼灸師」といった国家資格や公的な資格はありません。しかし、整体院の開業を目指す上では人体の知識や技術を身につける必要があるため、民間資格でスクールや講座を受講して取得される方がほとんどです。ここでは、整体師に関連する代表的な資格をご紹介します。

自然治癒力を高める「カイロプラクティック」

「カイロプラクティック」とはアメリカで生まれた手技療法です。骨格のゆがみ、痛みの緩和、姿勢改善などで自分のもっている自然治癒力を高めてくれる施術です。整体と同じ「身体のゆがみ」にアプローチするのは同じですが、「カイロプラクティック」は身体全体のバランスを整えていくことで、身体のさまざまな不調にアプローチしていくことができます。ここ数年、「整体」と組み合わせて取り入れている店舗が増えてきています。

健康に導く施術「オステオパシー」

「オステオパシー」と聞いても、あまり聞き馴染みのない方も多いのではないでしょうか。「オステオパシー」とは骨に加え筋肉や臓器といった、身体全体の機能面の不調にアプローチできる手技療法です。頭痛・眼精疲労・自律神経の乱れ・肩こり・腰痛・膝の痛みなど、さまざまな部位に効果を発揮してくれます。また、それだけでなく生活面での食事の乱れや、睡眠に対するアドバイスなど、お客様の身体を健康に導くことも施術の一環で行っています。ぜひ、一緒に取り入れてみてほしい資格です。

優しくケアする「リフレクソロジー」

足裏の施術として定着している「リフレクソロジー」。血行促進やリンパの流れを良くしたり、老廃物の排出を促すなど、美容効果が高く女性から人気のある施術です。そのため、最近では「リフレクソロジー×整体」や「美容整体」など、身体の不調、癒しや美容といったさまざまな角度からアプローチできて、独自性のある整体院やリラクゼーションサロンが増えてきています。ぜひ、資格取得の参考にしてみてください。

スムーズな開業には「綿密な計画」が大切!

今回は、整体院の開業に必要な書類や制度、準備しておきたい開業資金の目安や資格についてご紹介しました。整体院を開業することがゴールではありませんが、スムーズに開業するためには「綿密な計画」を事前に立てておくことが大切です。一つひとつ確認しながら、準備を進めましょう。

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