ここで登場していただく2人は、現役時代「顧客づくりの達人」として多くのファンを持ち、顧客に支えられる店を牽引(けんいん)してきた方々です。濃密な人間関係を築くための地道なものから裏ワザ的なものまで、達人たちが磨いてきた顧客づくりのポイントを明かしてもらいます。できることから参考にして実践していきましょう。

1.顧客に支えられる店になる6つの心がけ

「店長、今帰られたお客さまってお知り合いですか?」。初めて来店されたお客さまを見送った後、スタッフからよく聞かれたものである。「大丈夫!無理にお勧めしないから怖がらないで」――初めてのお客さまに対しては、特に親しい友人のように対応していたのでそう見えたのだろう。顧客づくりは初来店からの地道な積み重ねの成果なのだ。
地道な接客の積み重ねがリピーターを増やし、やがて顧客に支えられる店になっていった。以下は、私が店長時代、顧客づくりのために心掛けてきたこと、実践してきたことである。

決して売ろうとしない

お客さまは売ろうとすると引いてしまうが、欲しい情報には耳を傾けてくださるもの。ある時、顧客から「この服の着回しの可能性を広げてくれた」とうれしい言葉を頂いた。以後、この言葉にとても励まされたものである。

2回目来店時の印象が固定客化への鍵を握る

1回目の接客対応の印象が良いと、お客さまの2回目の期待感も高まる。ここで「ちゃんと覚えていますよ」とアピールできれば、お客さまとの信頼関係がぐっと深まる。それは、お客さまの表情や態度から感じ取ることができる。

購入客だけがお客さまではない

買ったか買わないか、お買い上げ金額が多いか少ないかで態度を変えない。ふらっとご来店になり一周してお帰りになるお客さまにも、きちんと「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」のあいさつは徹底していた。

お客さまの専属スタイリストとしての使命感を持つ

「昨年お買い上げいただいた黒いパンツと合いますよ」と言ったことで、お客さまから「パンツ1本分儲けたわ」と言われたこともあったが、逆に信頼を得る結果となった。無駄のないコーディネート提案が喜ばれ、いつしか「あなたにお任せで……」と言ってくださる顧客も増えていった。

手書きDMで接客のフォローを

お礼、おわび、入荷のお知らせなど、まめに手書きDMを活用していた。顧客の来店が重なり十分な接客ができなかったときにも、DMでフォローさせていただいた。書き方のポイントは、接客時に交わした会話を盛り込んだりして、自分の言葉で書くこと。お客さまと共有できる内容であればあるほど印象に残り、来店率もアップする。

どんなに親しくなってもお客さまとの一線を越えない

なれ合いの関係は最も顧客を失うもとである。会話は「~だよね」とフレンドリーな口調でも、あいさつやおわび、金銭授受の際にはきちんとした対応を心掛けた。これは接客におけるメリハリである。「親しき仲にも礼儀あり」――お客さまとの程よい距離感が、長く顧客との関係を保つ秘訣である。

2.この人に頼めば何とかなる最初から無理難題を聞く

短時間でお客さまからの信頼を獲得して「顧客」になっていただかなければ、他社には勝てない。そもそも顧客が「私はこの店の顧客(VIP客)なんだ」と実感する瞬間とは、一体どんなときだろうか?

ほかでは1週間かかるスーツの直しを3日で仕上げてくれる
通常は取り寄せできないセール商品を取り寄せてくれる
直しの仕上がった商品を家まで持ってきてくれる

確かにこのようなサービスは、長年付き合っている顧客の方にはしてあげたいと思うし、実際にしている人もいるだろう。私はこれらのことを、その日初めて出会ったお客さまに積極的に行った。無理難題を聞いてくれる販売員だということを、最初のうちから分からせてしまうのだ。「この人に頼めば何とかなる、私はあの人の顧客だから!」と思わせる。そうは言っても頻繁に無理難題を聞くシチュエーションは来ない。そこで、大したことのない日常での接客販売を、さも無理難題を聞いてくれる信頼のおける販売員に見えるように自分で台本を書いてしまった。自作自演である。

例えば「スーツを購入したいけれど、今日の夕方までに必要なのだが裾上げは間に合うか?」と聞かれた場合。「はい!大丈夫です!!1時間で仕上げます」と言うと、普通の販売員になってしまう。だってできることをできると言っているだけだから。

私の場合は、無理難題を聞いている販売員なので「ハ、ハイ。ショ、少々お待ちください。加工場の社長に交渉してきます」と答える。そして裏へ駆け込み3分ほど待つ(今ならどこの百貨店でも股下ぐらい1時間もあれば加工できる。交渉なんかいらない)。

裏はただのストック場だから時々ほかのスタッフに「何やってんすか?」とか言われながら。3分たったらお客さまの所に戻って、「今日は込み合っているみたいですが、何とか3時間で仕上げます。夕方までには間に合いますが、大丈夫でしょうか?なるべく早く出来上がるように再度言っておきます。出来上がりましたらすぐにご連絡いたしますので、携帯電話の番号をこちらへ……」と余計なことを2つも3つも入れて答える。

一見面倒くさいやりとりだなと思える台本だが、結果が全く違った。

当然、どちらでもスーツは売れるだろう。お客さまの求めている夕方までにスーツが欲しいという要求は満たされているのだから。ただ後に「顧客」になるかならないかを考えたら、自作自演の方が勝つ。もちろん、長年お付き合いのあるお客さまには普通に1時間で仕上げる(こんな面倒くさいことはしない)。

[記事提供元]ファッション専門店の20~30歳代ショップスタッフに支持されている月刊総合専門誌「ファッション販売」

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