若い世代を中心に、環境や動物への配慮などエシカルな視点から、ヴィーガン(ビーガン)というライフスタイルに関心が高まっています。自身の経験から「ヴィーガンの方も、ヴィーガンでない方も、出来るだけたくさんの方とお料理を通じて、同じ空間や時間を楽しめたら」という想いでヴィーガンの楽しさを広げたいと、東京・浅草でヴィーガンレストラン「まるごとVeganダイニング浅草」を経営するオーナーシェフの須田このみさんに、店舗経営の工夫、開業秘話などをお伺いしました。

自身の減量・体調改善の経験からヴィーガンコンサルタントに転身!

食事で2か月7キロ痩せた実体験からヴィーガンの素晴らしさを実感

前職はIT企業でWEBディレクターをしていたという須田さん。不規則な生活から体重が増えてしまいヨガを始めました。ヨガでも減量に成功しましたが、さらに食事を見直して2か月で7キロの減量に成功したことをきっかけに、食事の大切さを痛感。その後、断食ダイエット合宿所でのヨガ講師とダイエットアプリのトレーナーとして、ダイエットに取り組む人たちを支える側に転身しました。

ダイエットアドバイザーとして食事の大切さを伝える

ダイエットトレーナーの仕事では、ダイエット中のお客様の食事をアドバイスする立場でしたが、人によっては思うように体重が減らないことも。「食べたいけど痩せたい」、「甘いものも食べたい」といったお客様の欲求も満たせないかと試行錯誤していました。その時出会ったのがアメリカで開発されたナチュラルハイジーンという食事のとり方でした。

ナチュラルハイジーンは、1830年代のアメリカで医師たちの間で作られた健康理論です。一日を体内のリズムに合わせ3つに分けます。早朝から正午にかけては排泄の時間、お昼から夜8時までは栄養補給と消化の時間、夜8時以降は吸収と代謝の時間です。食事はプラントベースホールフード(植物性のものを、できるだけ加工しない)が中心です。午前中は消化のよい果物を食べる、水分補給はたっぷりと、炭水化物と動物性食品は同時に食べません。同時に睡眠や運動なども大切にしようという理論です。

体も心も楽になる「食の大切さ」を伝えてサポート

まずは須田さん自身がナチュラルハイジーンを実践して、胃痛や生理痛、花粉症、金属アレルギーなど日々感じていた病院に行くほどではない不調が無くなったことを実感。食事が与える体への影響に深く興味を抱いた瞬間でした。

ナチュラルハイジーンを取り入れた当初、お米が好きな須田さんは「ごはん+野菜」を必然的に選択することとなり、おのずとヴィーガンの食を選択することがメインとなりました。その後、3か月かけてベジタリアンからヴィーガンに。段階的に切り替えたことによって、乳製品を食べたときに体の不調を感じることに気づけたそうです。そして体調が一番良いのはヴィーガンと実感し、ヴィーガンという選択を続けています。

前オーナーからお店を引き継ぎヴィーガン店にリニューアルして開業

「いつかはお店を持ちたい」が実現

浅草が好きで引っ越しました、とおっしゃる須田さん。ヴィーガンになってからは、ヴィーガンコンサルタントとして浅草エリアを中心に活動し、一般人向けに食事を見直す講座を主催したり、飲食店向けにヴィーガンのオプションメニューの開発提案を行っていました。

須田さんがヴィーガンになった頃は、ヴィーガンメニューを提供しているお店が少なく、日々お店探しもしていたそうです。その中で見つけたお店が現在の「まるごとVeganダイニング浅草」がある場所でした。
前オーナーとの出会いは来店客としての立場からでしたが、その後はお店のメニュー開発を任されるまでの関係に。その後、前オーナーからお店を引き継いでほしいと依頼され、思いがけない形で店舗開業となりました。いつかはお店を持ちたいという願いが、図らずも実現しました。

観光地「浅草」での集客はアプリの活用で順調にスタート

開店時はコロナ前、浅草という立地と検索アプリのおかげで9割が外国人客

今年で店舗開業3年となる「まるごとVeganダイニング浅草」ですが、開店当初はコロナ前。浅草という土地柄、海外からの外国人観光客が多く来店していました。当時の外国人客の割合はなんと9割。その外国人客のほとんどが「Happy Cow(ハッピーカウ)」という欧米を中心に世界的に有名なヴィーガンやベジタリアンのメニューがあるお店を検索できるアプリを見て来店してくれたそうです。アプリは無料で登録できるため広告費はかからず、人流の多い観光地という土地柄とお店検索アプリのおかげで、開店直後からお客様に来店いただけたそうです。

注目集まるヴィーガンで、若い女性を中心に客層が変化

その後コロナ禍となり客層は一変。このころから20代、30代の女性の来店が中心となりました。日本国内でもエシカル消費などからヴィーガンの認知度が高まり、インスタグラムなどSNSやネットの情報からお店を探して来てくださるお客様が大半になったそうです。

コロナ禍となってからは健康を気にする人が増え、ヴィーガンに興味を持って来店するお客様が増えたきっかけになっており、ヴィーガンはストイックというイメージを持つ人が減ったと感じているそうです。

須田さんのお話の中で興味深かったのが、20代の女性は環境や動物への観点からヴィーガンに興味を持つ人が多く、30代になると健康を意識して「野菜を食べたい」とお店を探して来てくれる人が多いという話でした。世代によっての傾向はあることは実感しながらも須田さんは、「ヴィーガンに興味を持って食べに来てくれることがとってもうれしい!」と笑顔でおっしゃっていました。
お店のホームページには「ヴィーガンもヴィーガンでない人も」と書いてあり、ヴィーガンを押し付けるのではなく、お店に来てくださった人を温かく歓迎している気持ちがにじみ出ていました。

ヴィーガンを体験してほしい!やさしさ感じるお店の工夫

店内ではスタッフ手作りのヴィーガン解説のノートや本がずらり

須田さんのお話を聞いたりSNSやホームページを見ていると、決してヴィーガンを押し付けない姿勢を感じます。店内には書籍や絵本もたくさんあり、食事が来るまでの間に読むお客様も多いそうです。

席にはスタッフが考えて手作りしたヴィーガンを解説する冊子もあり、ヴィーガンに興味を持ってくれたお客様を歓迎する雰囲気が伝わってきます。須田さん以外のスタッフは、フレキシタリアン(植物性食品を中心に食べ、時々肉や魚も食べるベジタリアンスタイルの人こと)やベジタリアン(肉や魚と、肉・魚を含む食品を食べない人のこと)など、ヴィーガンではない人もいるからこそ、ヴィーガンに興味を持ち始めたお客様へのやさしいアプローチができているのだなと感じます。

お店に来店できないお客様には、オンラインショップでヴィーガンを提案

店舗だけでなく、2021年からはオンラインショップも開始。「本当はお店でできたてを食べてほしい。だけど、そのきっかけづくりのためにも手軽にヴィーガンを楽しめるように全国どこからでもご注文いただけるオンラインショップを始めたんです。」と店舗開業当初からオンラインショップの開設も同時に検討していたそうです。店舗同様に、食品添加物を使用しないなど慎重に選んだ材料を使って商品を販売しています。

2021年の4月からスタートしたオリジナル企画商品の「VEGAN CUBE(ヴィーガンキューブ)」は、見た目もかわいくキャッチーで、手軽にスムージーやヴィーガン料理を楽しむことができ、オンラインショップの看板商品になっています。作り方は動画でも紹介するなど、分かりやすく伝える工夫もされています。

「ヴィーガン」の素晴らしさを伝える今後の展望 

取材の翌週には、初のポップアップストアを阪急うめだ本店で控え、店舗、オンラインショップ以外にも新たな販路を広げています。ポップアップストアでは、オリジナル企画商品の「VEGAN CUBE(ヴィーガンキューブ)」を販売予定で、関西のお客様がどういった興味を持ってくれるか、接客の中でどんなお話ができるか楽しみですとおっしゃっていました。

須田さんの根本にあるのは「おいしさを届けたい」という思いです。おいしいと人は笑顔になり、会話も弾む、そのおいしさをヴィーガン料理を通して届けたいと常に考えています。

最後に、今後の抱負をお聞きしました。「『ヴィーガンっておいしいのね!』と知ってもらいたいです。とにかく多くの人においしさをお伝えしたいです。そのために、ヴィーガン専門店を増やすのは難しいけれど、ヴィーガンをメニューの一部に取り入れるお店の応援をしたいと思っています。ヴィーガン加工商品の卸販売や、ヴィーガンオプションメニューの飲食店支援のコンサルティングなども広げていきたいですね。」と教えてくださいました。

それから、「ヴィーガンを知ったうえで選択しないというのは仕方ないですが、知らないのに選択しないのはもったいない。その意味でもより多くの人に食べてもらうきっかけを自分で作っていきたい」とおっしゃっていました。

須田さん、お話をお聞かせいただきまことにありがとうございました。

ヴィーガンレストラン「まるごとVeganダイニング浅草」

[名称]まるごとVeganダイニング浅草(マルゴト ヴィーガン ダイニング アサクサ)

[住所]東京都台東区花川戸1丁目3−3

[ホームページ] https://dining.marugotovegan.com/

[インスタグラム]
店舗 https://instagram.com/marugotovegan_dining
オンラインショップ https://www.instagram.com/marugotovegan_onlineshop/