京都発のフェアトレードブランド「シサム工房」では、ファッションや雑貨以外にもオリジナルのフェアトレードコーヒー「SISAM COFFEE(シサムコーヒー)」を展開しています。今回はそのシサムコーヒーの生産現場について、フィリピンの生産現地で20年以上支援してきた環境NGO 「コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(以降、「CGN」と略) 」の反町眞理子さんを講師に迎え、お話をお聞きしました。

シサムコーヒーで使われるコーヒー豆は、フィリピン・ルソン島の小規模農家が手間暇かけて育てており、年に1回収穫されています。どうしてフェアトレードNGOではなく、環境NGOなのか?…私はそんな疑問を持ちながらお話をお聞きしましたが、その答えは、「環境」「農家さんのニーズ」というところにありました。

シンプルにおいしくて、「みんなが幸せになる」がコンセプト

シサム工房では、2013年にフィリピンからフェアトレードコーヒー「シサムコーヒー」の直輸入を開始しました。シサムコーヒーのコンセプトは「みんなが幸せになる」こと。シサム工房が目標に掲げている「五方良し」を表現している商品で、飲み手(買い手)にとっての極上の一杯であるだけでなく、作り手、買い手、売り手、世間(社会)、地球環境にも良い、みんなが幸せになるコーヒーです。日本からコーヒー専門家を派遣し、味わいや風味にもこだわっており、2016年には、ソーシャルプロダクツ・アワード2016の優秀賞を受賞しています。

環境も小規模農家の生活も両方大切にする「アグロフォレストリー」なコーヒー

今回のお話は、シサムコーヒーの生産地であるフィリピンの現状について教えてもらうところからスタートしました。

コーヒー豆の生産農家を支援する環境NGO「コーディリエラ・グリーン・ネットワーク」

シサムコーヒーのコーヒー豆を生産する小規模農家を支援する、環境NGO「コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(略「CGN」)」は、2001年に立ち上げられたフィリピンのNGOです。日本人のメンバー以外に、山岳地方の先住民出身のスタッフもいます。

CGNは、首都マニラも所在するフィリピン北部のルソン島にあるコーディリエラ地方を拠点に活動していますが、この地方には、さまざまな先住民が住んでおり、インフラ未整備の場所も多くあります。ユネスコ文化遺産に登録されている、フンドアン群パパオ村の棚田は有名で、風光明媚な農村地帯もあるエリアです(首都マニラから250kmほどですが、バスでほぼ1日かかるほど、まだまだ不便な場所だそうです)。

一方で、フィリピンの国全体で見ると、急速に発展しています。

フィリピンの人口は2020年時点で約1億903万人と日本の人口とだいたい同じくらいですが、日本の少子高齢化・人口減少とは真逆で、人口増加中で平均年齢は24歳。消費意欲が高く、経済発展が著しい国です。一昔前のイメージでは、日本に出稼ぎに来る国というイメージがありましたが、今やフィリピンは日本からの語学留学など、都市部は急速に発達しています。

そんな経済発展が進むフィリピンですが、農村の人々は、現金収入を得るために急速に森林を農地に変えており、その結果、豊かな森や水源がなくなり、土砂崩れが起きるなど環境破壊が進んでいます。またかつての鉱山開発によって水源が枯れ、雨が降ると崖が崩落するという災害も多発しています。

そこに待ったをかけるべく、「自然と共生している土地を守り、ゆっくりと成長していこう」と考えて作られたのが反町さんをはじめとする環境NGOのCGNです。

左端が環境NGOコーディリエラ・グリーン・ネットワークの反町さん

森と水源を守り災害を減らすための植林と生計を立てる農業を両立する「アグロフォレストリー」(森林農法)

シサムコーヒーの豆は、「アグリカルチュアー(農業)」に「フォレストリー(林業)」を合わせた「アグロフォレストリー」と呼ばれるサスティナブルな手法で育てています。

環境を守るために行う植林だけでなく同時に農作物の栽培や家畜の飼育も行い、農家さんの希望やニーズに合わせて栽培をしています。いくら環境のためであっても、生きていくための収入が無ければ、農家の生活は成り立ちません。このアグロフォレストリーの方法で、CGNでは輸出もでき換金性のある「コーヒー」を育てることを小規模農家に長年勧めてきました。

一例ですが、アグロフォレストリーでは、以下のように非常にたくさんの植物を育てています。小規模農家のフェリーさんの農園では、コーヒーの木以外に…

・バナナ
・パイナップル
・ジャックフルーツ
・パッションフルーツ
・パパイヤ
・しょうが
・ターメリック
・キャッサバ
・柑橘類

といった木が近くに植えられています。
そして土の中には

・里芋
・サツマイモ

ツタのところには

・サヨテ(ハヤトウリ)
・ピーナッツ
・パコ(こごみ)
・インゲン
・さやえんどう
・かぼちゃ
・ウポ(瓜)

があり、直射日光に弱いコーヒーの木を守るための、シェードツリーが植えられています。

従来の自給自足の生活では、こどもの進学や教育、家族の通院のための現金収入が得られません。道路などのインフラが未整備でも、ネット通信ができ情報が入ってくるようになったことで、生活様式が変わってきた背景があります。

かつては、森を燃やし、キャベツ畑やジャガイモ畑に変え、保水力がなくなり、生活用水にも困ることが起きました。そういった問題を解決する方法がアグロフォレストリーです。

ではどうして、CGNでは「コーヒー」の栽培を農家にすすめているのでしょうか。このコーディリエラ地方の場所や気候が大きく関係しています。

シサムコーヒーの豆は、「アラビカ」という品種です。アラビカは、標高700m以上が良いとされて、一日の寒暖差があり、雨が多くても育ちやすい特徴があります。一方で直射日光には弱く、この点は先ほどご紹介したアグロフォレストリーの手法で解決できるのです。また、先住民はもともとコーヒーを飲む習慣があるので、自分たちの嗜好品としても栽培するメリットがあります。手間はありますが栽培は難しくなく、コーヒーは輸出ができるのでフェアトレード市場を使って外貨を稼ぐことができます。国内市場が不安定なフィリピンですが、国内向けの農作物ではなく、海外輸出の品目であることで農家の生活を支えることができるのです。

シサム工房の「シサムコーヒー」ができるまで

環境を守り、農家の生活も支援しているシサムコーヒーの豆ですが、実は大きなハードルがあります。それは、コーヒーの最初の実が付くまでに3~4年もかかることです。しかも最初はほんのわずかしか採れません。つまり、5年間程度は収入がなく、コーヒーのお手入れだけの期間が続くのです。CGNの説明やすでに成功している農家からの情報などが、アグロフォレストリーによるコーヒー豆栽培を支えているのです。

講師の反町さんは、コーヒー豆の収穫から出荷されるまでの流れも詳しく教えてくれました。

■コーヒー豆の収穫
コーヒーの収穫は年に1回。シサムコーヒーは一粒ずつ赤くなっているものだけを手摘みしています。熟していない緑色もダメ、熟しすぎた茶色もダメです。茎の部分まで赤くなった赤い実だけを見極めて収穫しています。

■果肉の除去
私たちがコーヒー豆として見ている生豆を取り出すための作業に進みます。生豆を取り出すのは、一般的に「ウォッシュド(水洗式)」と「ナチュラル(天日干し式)」がありますが、雨が多く降り湿度も高いため、カビの心配が少ない「ウォッシュド」を採用しています。

「ウォッシュド」は、水につけた後、皮むき器と手作業で皮を向きます。その後、12~16時間程度発酵させてから生豆を取り出します。

講師の反町さんからは、「世界のスペシャリティーコーヒーは、実が付いたまま発酵することでフルーツのような香りを強調できる『ナチュラル』を選ぶ傾向があります。一方でシサムコーヒーは生産地の気候なども考慮しウォッシュドを採用しており、日本人好みのマイルドな味わいになるように仕上がっています。その部分をコーヒーの魅力として伝えてほしい」とおっしゃっていました。

■乾燥パーチメント(殻剥き)
その後、1~2週間ほど乾燥させています。
殻剥きは機械での作業もありますが、手作業の場合は、臼と杵で突き、ざるで殻を飛ばす手作業になります。非常に原始的で重労働な作業です。

■選別・貯蔵
最後は、割れや虫食いが無いか、発酵が進みすぎた豆がないかを一粒ずつ選別します。CGNでは標高が低く日照がある場所に移動して、最終的な選別を行うことで、品質向上に努めています。

このように年に1回だけの収穫から、労力と時間をかけてシサムコーヒーがつくられています。これを支えるのは、CGNのスタッフであり、先んじてCGNが提案するコーヒー栽培のアグロフォレストリーに取り組んできた各地域の農業組織のリーダーたちです。若きリーダーや女性たちが、CGNの指導内容を忠実に実践し、後に続く農家たちの育成やデモンストレーション指導などもサポートしてくれています。

このようにいくつもの工程を経て、手間と時間をかけて作られているシサムコーヒー。森を守り、水を守ることは、そこで生活する人間だけでなく、その周りには鳥がいたり、ヤマネコがいたり、虫がいたりと生態系も豊かになります。誰一人取り残さない、みんなにとって幸せなシサムコーヒーの魅力。お話し会の後、とっておいたドリップタイプのシサムコーヒーを飲みながら、コーヒーが作り出す人々の笑顔が思い浮かびました。エシカル商品を扱う意義や楽しみを今回のお話しを聞いて改めて感じました。

シサムコーヒーを通じて、フェアトレードやアグロフォレストリーの魅力をお客様に伝えてみよう

おいしさの裏側に、生産者の生活向上と環境保全があるシサムコーヒー。アグロフォレストリーで栽培されたコーヒー豆をフェアトレードで取引し、シサム工房を通して私たちに届いています。飲んでいる人がおいしくて幸せになるだけでなく、作っている人やそれを支える人もみんな幸せになるシサムコーヒーをお店で試してみませんか?手軽に販売できるドリップパックから、お店での提供に使える豆や粉の1㎏の業務用サイズの販売もあります。

各コーヒーの商品ページにもシサムコーヒーの魅力が紹介されていますので、ぜひこちらもご覧ください。