京都発フェアトレード企業「sisam(シサム工房)/FAIR TRADE + design」の商品は、手にするたびに丁寧で繊細な手仕事の心地よさを感じ、伝統技術や職人の技などを見つけることができます。「作り手よし、売り手よし、買い手よし、社会よし、地球環境よし」の”五方良し”を目指す企業です。そんなエシカルなシサム工房さんについて、卸部門を担当する富澤さんにお話をお伺いしました。

シサム工房の富澤さん

互いの個性を尊重しあう「シサム(よき隣人)」という考えで、よりよい社会を実現するためにフェアトレード商品を扱うお店からスタート

──まず最初にシサム工房さんの理念について教えてください。

富澤さん:当社は「お買いものの力で 思いやりに満ちた社会を作る担い手となる」をビジョンに掲げています。代表の水野は学生時代に人権や貧困問題に出会い、アジアやアフリカを旅しました。その時に見て感じたこと、どうにかしたいと思ったことをフェアトレードを事業にして解決していきたいと思ったことが出発点です。

シサム工房には「what you buy is what you vote」という言葉があります。お買いものとはどんな社会に一票を投じるかということ、という意味です。フェアトレードは、途上国に暮らす人たちがつくった商品を購入することで途上国の人々の自立支援につながる仕組みです。生産者に寄り添いながら、お客様が欲しいと思う魅力的な商品を作り、お買い物してもらうこと、これがシサム工房です。

ちなみに、「シサム」はアイヌ語で「よき隣人」という意味なのですが、同じ地球上に暮らす人たちと「良き隣人」としてつながって生きていきたいという想いから、シサム工房という名前になりました。

──なるほど、シサムはアイヌの言葉なのですね。次にシサム工房のはじまりについてお聞きしたいです。シサム工房と言えばファッションのイメージですが、最初から洋服を扱っていたのですか?

富澤さん:いえ、1999年4月にシサム工房としてスタートしたときは、代表の水野が現地で仕入れた家具や古民具といったインテリア品や、フェアトレード品もランプシェードや生活雑貨などがほとんどで、ファッションアイテムは少ないお店でした。その後、徐々にファッションアイテムを増やしていき、デザイナーやパタンナーも社内に配置し、今の形になっていきました。京都の本店は開業当初から続くお店です。ぜひ皆さんいらしてくださいね。

シサムコウボウ 京都・本店

現場で見て感じたことは社内みんなに共有、「シサムの学校」で学んだ商品知識をお客様に伝える

──シサム工房さんの商品ページやSNSなどから、フェアトレードの生産の現場を垣間見ることができます。「シサムの学校」や「シサムの朝活」、「お話会」といった卸先も参加できるイベントもありますよね

富澤さん:シサム工房は京都、大阪、兵庫、東京に直営店があるのですが、直営店のスタッフは「販売員」だけではなく、商品の背景を語る「ストーリーテラー」としての役割も持っています。入社時の研修でフェアトレードについて学ぶ機会があるのはもちろんのこと、シサム工房の商品を作ってくれているフェアトレード団体ごとの詳しい情報を学べる「シサムの学校」という研修会も月1回程度設けられています。学んだことは、店頭での接客に生かすだけでなく、スタッフたちが自分の言葉でSNS上で発信することも宿題になっています。

インドのフェアトレードNGOの「SASHA(サシャ)」の代表ルーパさんとスワガタさんが来日されたときのお話会の様子

──スタッフみんなが「ストーリーテラー」なのですね。

富澤さん:得た情報をそのまま発信するのではなく、咀嚼したうえで自分の言葉で発信することが大切だと思っています。聞いたこと、覚えたことをそのまま伝えると押しつけになりがちです。当社の屋号にはシサム工房の後に「FAIR TRADE + design」という言葉が続いていますが、それはフェアトレードを事業として取り組んでいることをきちんと伝わるようにするためです。

お客様にもっとフェアトレードを知っていただきたいのはもちろんなのですが、あくまで押し付けではなく、商品そのもののデザインや魅力を伝えつつ、「商品が作られている背景に想いをはせてお買いものをしていただきたいと思っています。これがこれからのお買いものの新常識のような形で浸透していければとても嬉しいです。

希少価値のあるフィリピンのコーヒー豆を使った「Sisam Coffee(シサムコーヒー)」

──シサム工房の商品についてお聞きしていきたいと思います。「シサムと言えばコレ」という商品を3つ選ぶならどちらでしょうか?

富澤さん:1つ目は「Sisam Coffee(シサムコーヒー)」です。

[画像商品]<フェアトレード>シサムコーヒー 深煎り 200g

──シサム工房と言えばファッションというイメージがあるので、正直なところ「シサムコーヒー」の存在は特別感があります。シサムコーヒーはどのように始まったのでしょうか?

富澤さん:おっしゃる通り、シサム工房で扱う商品数の割合から言うとファッションがメインになりますが、「シサムと言えばコーヒー」と看板商品のように認識してくださる取引先様もいるほど、シサムコーヒーもご好評をいただいています。

シサムコーヒーのはじまりは、フィリピン北部のルソン島北部で森林破壊の問題に取り組む環境NGOから相談を受けたことです。フィリピンでは現金収入を得るために換金性の高い作物を作ろうと土地を焼き払って農地を作ろうとし、環境破壊が進んでいます。それを止めるためにフィリピンの環境NGOでは、海外に輸出ができ収入源となるコーヒーの木を植林して化学肥料や農薬を使わないコーヒーをつくり、その周りには野菜など多様な換金作物を植える「森林農法」という方法で環境保全を行っています。

フィリピンはコーヒー栽培に適した場所ですが_まだまだ生産量が少ないことから、コーヒー会では希少価値が高く、卸先のお店様によっては「幻のコーヒー」として販売されているところもあるようです。なので、シサムコーヒーが人気である理由の1つとして、フィリピン産であることもありますね。

──たしかに、フィリピンのコーヒーは聞いたことが無いですね。フェアトレードでもありますが、森林保全のために作られていて、現地の山岳民族の人々が暮らす環境や安全につながっているのは素晴らしいと思います。

富澤さん:ありがとうございます。シサムコーヒーは焙煎前の生豆も取り扱っており、焙煎をされているコーヒーのプロの方々にも仕入れていただいています。シサムコーヒーが誕生するまでの卸先はファッションや雑貨のお店が多かったのですが、シサムコーヒーを通してシサム工房を飲食業界のお客様にも知っていただくことができ、新たな販路開拓につながることのできたきっかけの商品です。

生豆だけでなく、焙煎した豆・粉は通常サイズと業務用サイズがあり、手軽なドリップパックもご用意しています。ドリップパックはその手軽さから、それまでファッションの取引のみだった卸先の店舗様でも、ギフトアイテムとしてご好評いただいています。

シサムの定番、綿の栽培から生産者と一緒に作る「Sisam Organic(シサムオーガニック)」

──続いてのシサムならではのアイテムを教えてください。

富澤さん:Sisam Organic(シサムオーガニック)」です。シサムオーガニックはシサム工房のフェアトレードを語る上では欠かせない定番シリーズです。

オーガニックコットンを使った服作りをしたいと、代表と副代表が2012年頃にインドの東部にあるオリッサ州の農場を訪問し、そこで見たNGO団体の取り組みを知って感激したことがはじまりです。当時、緑の革命と呼ばれる遺伝子組み換え種子や化学肥料、農薬を使った高品質で収穫量の多さを追求する農業の影で、凶作により収穫ができず、借金の返済に追われて自ら命を落とす農民が絶えないという問題がありました。
そうした社会課題を背景に、農業の専門家や市民活動家が2004年に「チェトナ・オーガニック」という農民組合を設立し、シサム工房ではそこでの活動を通して育てられているオーガニックコットンを使用しています。生地の原料となるオーガニックコットンの綿の栽培の段階から商品づくりをしているんです。
「チェトナ・オーガニック」は地域の零細農家さんたちに、コットンだけでなくさまざまな換金性のある作物のオーガニック農法を指導し、この深刻な問題を減らしていこうと活動をしています。万が一、天候不良などでオーガニックコットンが収穫できなくても、収入を得られる他の作物があれば飢えることもないという考えから、このような活動を行なっています。

──毎日のように着ているコットンですが、貧困や自死といった問題が起きているというのは残念です。どこでどうやって作られているかを知り、作る側も着る側もうれしい仕組みで作られたオーガニックコットンを選びたいと思います。

シサムオーガニックの製品に使われているコットンは、世界フェアトレード連盟(WFTO)の認証を得ており、オーガニック繊維製品であることを証明するOrganic Content Standard認証を得ている工場で作られています。

原料の収穫から、工場、加工所、保管倉庫などすべての工程において、他原料の混合や汚染がないように整えられた体制のもと管理されたオーガニックコットンを使用しています。

──シサムオーガニックでのおすすめ商品も教えてください。

[画像商品]<フェアトレード>オーガニックコットンカットソー ボートネックトップ

富澤さん:シサムオーガニックの定番中の定番といえば、「オーガニックコットンカットソー ボートネックトップ」です。ベーシックなデザインですが、タイトすぎず、ゆったりすぎず、程よいサイズ感が体のラインをより綺麗に見せてくれます。定番商品ではありますが、より良い着心地を考えたり、お客様からのご要望を取り入れたりして、時代に合わせたデザインに改良を重ねているアイテムです。

[画像商品]<フェアトレード>オーガニックコットン カットソー インナー八分袖トップ

富澤さん:もうひとつは秋冬向けの八分袖のインナーです。肌に直接触れるからこそオーガニックコットンのアイテムを着ていただきたいと思い作りました。リブ編みで身体にフィットしますので、着心地の良さは一度試していただきたいですね。秋冬の冷え込む時期にオーガニックコットンの特別な心地よさを感じていただけたらと思います。

[画像商品]<フェアトレード>オーガニックコットンボートネックショートKURTA

富澤さん:「チェトナ・オーガニック」のオーガニックコットンではありませんが、オーガニックコットンの生地にインドの伝統的なチカン刺繍を豪華にあしらったデザインの商品もあります。母から娘に受け継がれていく手刺繍の技術を生かし、伝統文化の継承にもつながっています。刺繍のデザインは現地に咲いている草花がモチーフとなっており、自然の美しさも感じることができる素敵なアイテムです。
春夏は特にオーガニックコットンの製品がたくさん並びます。職人たちの丁寧な手仕事をぜひ手に取ってみていただきたいです。

作り手のくらしを感じられる木製カトラリー「neem(ニーム)」

──3つ目は、木製カトラリーの「neem(ニーム)」ですね。ニームという名前の由来は何ですか?

富澤さん:ニームはインドでよく見られる木の名前なんです。インドの伝統医学アーユルヴェーダでは、ニームの葉や種子、花、樹皮からエキスを抽出して使用するほど現地では薬の代わりにも使われています。シサム工房のニーム製品にそういった効果が実証されているわけではないのですが、生産者の生活圏内にある材料を使うのはフェアトレードのものづくりの特徴の1つなので、こうした原材料の背景の部分にも興味を持っていただけるとうれしいですね。

[画像商品]<フェアトレード>neem オオキナサジ

──ニームのシリーズですが、手彫りの模様が特徴ですよね。

富澤さん:デザインはシサム工房の雑貨担当のデザイナーが担当していますが、ニームのシリーズは数人規模の小さな工場でひとつずつ職人さんが手作りしています。カトラリーの持ち手の部分やお皿の底の部分に手彫りの模様があり、触った感触も心地もいいんです。

原材料のニームはインドで自生している木とお伝えしましたが、製品の仕上げに使っているオイルはマスタードオイルで、インドの生産者の生活の中にある身近な材料を使っています。

──マスタードオイル、、、日本ではあまり見ないですが、インドでは日常的なものなのですね。材料から生活が見えてくるようで面白いですね。

富澤さん:ラッカーやウレタン塗装をされている木製食器が多い中、シサム工房のニーム製品は食用に使われる自然由来のマスタードオイルを仕上げに使うことで差別化も図られています。「はちみつと一緒に販売できるような、口に入れても安全なスプーンを探していたんです!」とニームのスプーンを仕入れてくださる自然食品のお店さんもいらっしゃり、とても良い反響をいただいています。

お客様が安心して販売できる商品を提供できる喜びもありますし、生産者の職人たちにもお客様の感想を伝えて、それを励みにしてもらえたらと思います。こうして使う側のお声を作る側に伝えることができるのは、フェアトレードの透明性のあるものづくりだからこそできることだと思います。

[画像商品]neem(ニーム)シリーズ

フェアトレードをもっと身近に、そしてもっと多くの笑顔を増やすエシカルなプロジェクトに取り組む

──家具の扱いに始まり、ファッションの本格展開と思えば、コーヒー専門店も扱うフェアトレードコーヒーも扱い、木製カトラリーも人気。自分たちの範囲はここまでと線引きをせずに常に取り組みをされていますね。

富澤さん:スタッフそれぞれがアイデアを出しあい、実現化していこうとする風土のある会社なので、本当にいろんな企画が出てくるんですよ。シサム工房はファッションブランドというよりもライフスタイルを提案するブランドを目指しているので、販売だけでなく、事業活動全体でエシカルな取り組みを広げていきたいと思っています。

──具体的にはどういった取り組みですか?

富澤さん:たとえば「ロングライフプロジェクト」というものがあります。「つくったものを長く使う」「つくったものを通して笑顔を増やす」といった考えで、古着を回収して新たなものづくりをしたり、寄付につなげてフェアトレードでは繋がれない人たちの支援金にしたり、長く着ていただいたお洋服を京都の黒染職人による黒染めでさらに魅力的な1枚に生まれ変わらせたりといった取り組みです。

また商品開発でも、前年度までのコレクションで使っていた生地をポケットの裏生地に活用していたり、ノベルティ部門ではオリジナルコットンバッグの持ち手部分に活用したりしています。その他にも、商品カタログや契約書、伝票などのデジタル化、残布を使用したプラスチックフリーのラッピング、社内のゼロウェイストの推進など、事業活動のエシカル化をどんどん進めています。

前年度までのコレクションで使っていた生地をポケットの裏生地に活用

──取り組まれているプロジェクトの1つ1つがシサム工房らしく、ポジティブでメッセージ性のあるものばかりですね。最後に、インタビューを読んでいる方へのメッセージをお願いします。

富澤さん:シサム工房では、より多くの卸先様、消費者の方にブランドの魅力が伝わるように視覚的に訴える情報発信をしていきたいと考えています。先日は、ストーリー仕立てのコーディネートを紹介してみました。「誰が、どのように作ったか」がわかる透明性の高いフェアトレードだからこそ伝えられる情報をきちんと、楽しくお伝えしていきたいと思っています。そして、商品やブランドに愛着を持ってもらえるようにできればと思っています。

フェアトレードをもっと身近に感じていただき、シサム工房の考え方「五方良し」で多くの人々が笑顔になる取り組みを続けていきたいと思います。

──展示会でお会いする社員のみなさんはいつも自然体で、商品の魅力と出会わせてくれるような語り手だなと思っています。フェアトレードの商品を通して日々の生活を豊かに楽しくしたい、「五方良し」の想いが卸先様にも消費者の方にもますます伝わっていくとうれしいですね。今日はありがとうございました。

sisam(シサム工房)/FAIR TRADE + design