あまくておいしいチョコレート。とても身近な食べ物ですが、チョコレートの原材料であるカカオのことってほとんど知らないのではないでしょうか?そんなカカオが作られているドミニカ共和国のカカオ農家さんのもとに、フェアトレード商品を展開する出展企業のプレス・オールターナティブの麻生さんが出張されたとのことで、カカオ農家さんについてお聞きする機会をいただきました。

今回は、オーガニックチョコレートに使われている有機カカオを育てる生産農家さんの様子や、その有機カカオがフェアトレードで取引されることによって、どのような良いことがあるのかをお聞きしましたのでご紹介いたします。

生産者の顔が見えるものづくりを大切にするプレス・オールターナティブ

1986年に日本で初めてフェアトレード事業を始めた企業「プレス・オールターナティブ」では生産者の顔の見えるものづくりを大切にし、食品や民芸品を日本で販売しています。

今回はプレス・オールターナティブの麻生さんから、ドミニカ共和国のカカオ農家を訪ね出張された際のお話をお伺いすることができました。

有機カカオの原産地「ドミニカ共和国」とは?

ドミニカ共和国は、カリブ海で2番目に大きい島であるイスパニョーラ島の東側に位置する国で、イスパニョーラ島の西側にはハイチ、近隣の島にはキューバやジャマイカ、バハマなどがあります。

ドミニカ共和国は、赤道を挟み北緯20度から南緯20度にある「カカオベルト」と呼ばれる一帯にあり、2015年には有機(オーガニック)カカオの輸出量第1位になっており、平均気温は25度と暖かく、観光とコーヒー、カカオ、砂糖、たばこ、果樹といった農業が主な産業の国です。

カカオづくりには理想の環境づくりが大切

チョコレートの原材料であるカカオですが、まず日本でカカオの実をみることは滅多にありません。今回お話をお伺いする際に、出張時に乾燥して何とか持ち帰ってきた貴重なカカオポッド(カカオの実)を麻生さんに見せていただきました。

形はラグビーボールのようで、顔の大きさほどありました。見た瞬間「大きい!」と思うちょっとびっくりするほどの大きさでした。また、カカオに入っていたカカオ豆も一緒に触らせていただきました。

左)乾燥させたカカオポッドはラグビーボールのような形、右)パルプ(果肉)の中に種があり、種をパルプごと発酵・乾燥させるとカカオ豆になる

収穫した際はカカオ豆の周りにパルプというにゅるっとした白い果肉がついており、その果肉を付けたまま発酵・乾燥させることで、写真のようなカカオ豆になります。麻生さんが現地でパルプ(果肉)を食べてみたところ、さわやかな香りでライチのような甘酸っぱい味がしたそうです。

カカオ豆はこの実の中、パルプ(果肉)が付いた状態で入っています

カカオはカカオの木になりますが、枝や幹など木のいろんな部分に実が付き、写真で見せていただいたのですが、幹に直接実がついているのはちょっと不思議な光景でした。

カカオの木。実が枝からも幹からもついている

カカオは直射日光に弱く、日光が当たる場所と日陰50%ずつとなるような場所を好みます。周囲にはカカオの木よりも高い果樹が生えており、日陰が多すぎでもだめ、水が多すぎても腐ってしまうなど、環境づくりや毎日のように剪定するなどまめな手入れが必要です。

農薬も肥料も使わずに肥沃な土壌を作り、生態系も守る

肥沃な土壌であることも大切で、農薬も化学肥料も使わず、カカオの木の落ち葉や落ちた実をそのままたい肥にしたりしています。こうすることで水やりをしなくても乾燥せず、水分量を保つことができます。なにより、農薬や化学肥料を使わないことで生態系を維持し、病気になりにくい強いカカオの木が育つので持続可能な環境を守ることができます。

農家のやりがいにつながるフェアトレードの取り組み

農家のファンさんは、カカオ栽培12年の経験を持つカカオ農家です。カカオ生産の熱血指導員であったニコラスさんから有機栽培のノウハウを教えてもらった人物です。麻生さんが訪ねた際は、病気を未然に防ぎ、美しい農園づくりのために欠かせない剪定作業をしていました。

カカオ農家ファンさん

また若きリーダーである29歳のウィルソンさんは、親子3代でカカオ農家。実はドミニカ共和国でも日本同様に農業については後継者不足や高齢化が問題となっており、ウィルソンさんのような若い担い手は珍しい存在です。

農家のリーダーウィルソンさん

有機カカオの栽培に適したドミニカ共和国で高品質なチョコレートを作るために、スイスのチョコレート会社と協働でプロジェクトを開始し、栽培技術の継承やリーダーの育成も行っています。その後、カカオ農家が自分たちで協同組合をつくりフェアトレード認証を取得するまでに成長しています。

品質のばらつき、不安定な収入からの脱出

かつてドミニカ共和国でのカカオ生産は、農家はそれぞれ他の農家と関係なくカカオを栽培し、粗放栽培(そほうさいばい)といって、手入れはほとんどせずにほったらかしに近い状態にしていました。また、カカオの売り先が決まっているわけではなく、収穫の時期に仕入れ業者がきたら売るため、なるべくたくさんのカカオを売りたいからと、未熟なカカオも売ってしまうので品質がばらばらでした。収入面も不安定で、適正な価格で売ることができないために出稼ぎする人が多くいました。

その状況をフェアトレードの公平な取引が解決しています。フェアトレードの取引では、良い品質の有機カカオであれば全量引き取られ、カカオと引き換えに有機農産物に対する割増価格の代金を受け取ることができます。

フェアトレードの取引は継続的に行われるため、高品質なカカオを作るための知識を日々学び、丁寧に育ててきた結果は安定的な収入となって返ってきます。こうして、農家の自立を促し、働きがいを見出せることで生産者の誇りが生まれています。

実際、先ほどご紹介した農家のファンさんやウィルソンさんたちも、誇りをもって働いており、彼らの姿を見てフェアトレードの有機カカオの栽培に力を入れる農家を増やしています。

フェアトレードプレミアムによる技術や生活の質の向上

「フェアトレードプレミアム」とは、製品などの代金とは別に輸入する組織から支払われる奨励金です。プレミアムを受け取る側が何に使うかを民主的に決めています。ドミニカ共和国のカカオ農家を訪れた目的の一つは、フェアトレードプレミアムの使われ方や生産者たちの感想を聞くことでした。

フェアトレードプレミアムの使い道としては大きく分けて2つあり、生産技術の習得や農業施設の整備といった生産に関わることと、農家たちの生活の質の向上やコミュニティーの充実のために使われます。

具体的に紹介すると、
・貯水槽を作り水を引く(肉体労働であり、時間のかかる水汲みの生活からの解放)
・地域住民が集まれる集会場
・子どもたちに新しい靴をプレゼント
・貧しいために家の修理ができない家に新築の家を建てる
といった使い方をしているそうです。

コミュニティー内で本当に必要なものを議論して使っていることが伝わってきます。

有機栽培と公平で安定収入につながるフェアトレードでカカオ生産の解決につなげる

農薬や化学肥料を一切使わずに作られた有機栽培のカカオは、消費者にとっても生産者にとっても農薬による健康被害をなくし、農園の土壌汚染など環境への負荷を無くすことにつながります。また、フェアトレードの導入によってより一層高品質に作られるようになり、その結果、生産者である農家さんたちの安定的な生活を送る基盤になっています。

有機カカオをフェアトレードで取引することで、より一層美味しいチョコレートを食べられることはもちろん、生産者の応援ができるというのがフェアトレードの仕組みの良いところです。今回のように農家さんたちの様子を知ることは、商品のトレーサビリティーも分かることはうれしい点ですが、なにより生産者を近くに感じ、より一層応援したいと思えるのが良い点だと思います。フェアトレードの商品を店頭で扱う際は、その原材料や製品、そして作り手の人々の様子をお客様にご紹介することも大切だと思います。

プレス・オールターナティブのチョコレート

プレス・オールターナティブでは冬季限定でチョコレートを展開しています。2023年のチョコレート先行予約受注はスーパーデリバリーでは4月下旬から開始予定で、10月頃から出荷されます。毎年人気の商品を早めに確保しておきたい方は先行予約も活用してみましょう。