
本レポートは、卸・仕入れサイト「スーパーデリバリー」の年間注文データ(2024年8月1日~2025年7月31日)を基に、注文数トップ10の国・地域の仕入れ動向を徹底分析しました。アジアの「Kawaii」文化から欧米のライフスタイルに溶け込むニッチな需要まで、データが示す海外市場・越境ECのリアルな姿と、そこに眠るビジネスチャンスを解説します。
日本における各地域の仕入れトレンドは下記をご参考ください。
スーパーデリバリー2024-2025年ジャンル別仕入れ動向~各ジャンルを都道府県ごとにランキング~
目次
全体を通して見えた3つの仕入れ潮流
各国の注文データを分析すると、日本の製品への需要は大きく3つの潮流に集約できます。
- ポップカルチャーと趣味の世界
最も強力なトレンドは、日本のポップカルチャーと趣味の領域です。ステッカーやマスキングテープ、キャラクターぬいぐるみといった商品が全地域でランキング上位を独占しており、日本のキャラクターが持つ世界的な集客力を示しています。また、手帳などを自分らしく飾る「デコレーション文化」への強い需要が、アジアから欧米まで巨大な市場を形成しています。 - 日々の暮らしを豊かにする実用雑貨
趣味の世界と並行して、実用的な商品への需要も極めて高いです。ポーチ、Tシャツ、トートバッグ、マグカップなどが多く仕入れられています。これはバイヤーが、デザイン性だけでなく、品質や機能性、そして暮らしを少し豊かにする「気の利いた」価値を日本製品に求めていることの表れです。 - 日本の伝統美と文化体験
日本の伝統文化に根差した製品への関心も、特に欧米市場で顕著な潮流です。フランスでは湯のみや箸、カナダではてぬぐいや着物が人気を集めています。これは単なる物珍しさを超え、日本の「暮らしの美学(Art de Vivre)」や、その背景にある日本文化への深いリスペクトを反映しています。
アジア市場の仕入れトレンドと成長カテゴリ

アジア市場(台湾、香港、韓国、中国、タイ)は、スーパーデリバリーにおいて最も注文点数が多いのが特徴です。
この地域に共通するトレンドは、日本のポップカルチャーとライフスタイルトレンドに対する圧倒的に高い感度と受容性です。主要なトレンドは、「『カワイイ』を核としたキャラクター&ステーショナリーの仕入れ」、「トレンドを反映したカジュアルファッションと関連小物」、そして「生活の質を高める実用的な日用雑貨」の3つに大別できます。
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台湾の仕入れ詳細
台湾はスーパーデリバリーにおける海外の注文点数で最も大きな地域です。
台湾の直近1年の仕入れ動向は、特定のジャンルに偏ることなく、あらゆるカテゴリで日本の製品が深く浸透している「オールラウンド性」にあります。
- ステーショナリー・クラフト・キャラクターグッズの圧倒的な人気
ステッカー・シール、マスキングテープ、スタンプなど、ステーショナリー関連が群を抜いて高い注文数を記録。また、ぬいぐるみ・人形(特にアニメキャラ)も非常に人気が高く、日本のキャラクターコンテンツへの強い関心がうかがえます。
さらに、手作りキットや刺繍糸、毛糸といった商品の需要も安定しており、顧客のコレクション欲や自己表現ニーズに応える商品を積極的に仕入れている様子が見て取れます。 - カジュアル中心のレディースアパレルと関連雑貨
衣料品の中では、レディースアパレルが市場を牽引しており、特にTシャツ・カットソー、シャツ・ブラウス、ワンピースなど日常使いしやすいカジュアルウェアに人気が集中しています。アパレルと連動して、ポーチ、トートバッグ、ショルダーバッグの需要も非常に高く、靴下(特にクルーソックス)の人気も、足元のオシャレへの関心の高さを示しています。 - 「おうち時間」を充実させるキッチン・インテリア雑貨
日々の生活を豊かにする家庭用品も主要な仕入れカテゴリです。大皿・中皿、マグカップ、コップ・タンブラーなど食卓を彩る食器類の注文が多く、インテリア雑貨では置物・オブジェ(特に動物)が突出しています。水筒やお弁当箱といったランチ関連商品、エコバッグも高い人気を維持しており、見た目と実用性を兼ね備えた日本のライフスタイル雑貨が広く受け入れられています。
香港の仕入れ別詳細
香港は、台湾に次ぐ規模を誇る市場です。その仕入れ傾向は台湾と多くの共通点を持ちながらも、よりファッションへの感度が高く、独自の文化を反映した消費行動が見られます。
- ステーショナリー・クラフト・キャラクターグッズの圧倒的な人気
ぬいぐるみ・人形(特にアニメキャラ)は台湾同様、トップクラスの注文数を誇り、ステッカー・シールも続きます。香港市場のユニークな特徴として、グリーティングカードの注文数が他の国・地域に比べて突出して多い点があげられ、デザイン性の高い日本のカードが需要に応えていると考えられます。 - カジュアルファッションと関連アクセサリーが市場を牽引
衣料品では、Tシャツ・カットソー、シャツ・ブラウス、ワンピースが仕入れの中心です。そして、香港市場を象徴するのがポーチの絶大な人気です。これは単なる小物入れではなく、個性を表現するためのマストアイテムとして認識されています。トートバッグや靴下(クルーソックス)も高い需要があります。 - 生活を彩るインテリア・キッチン雑貨
暮らしにデザインを取り入れたいというニーズも高く、置物・オブジェ(特に動物)がインテリア雑貨の中で突出しています。マグカップや大皿・中皿など、日々の食卓で使うデザイン性の高い食器も安定した人気があり、水筒やエコバッグといった実用的で環境に配慮したアイテムも着実に注文されています。
韓国の仕入れ別詳細
韓国市場には、昨今話題の「꾸미기(クミギ)」、すなわち「飾ること」を意味する独自の文化が仕入れにも反映されています。
- 「꾸미기(飾る)文化」の主役、ポーチとキーホルダー
ポーチは、韓国において、全てのカテゴリの中で圧倒的な1位を記録。さらに、キーホルダーがポーチに次ぐ人気となっており、バッグやスマートフォンにキーホルダーを付けて飾る文化が深く根付いていることがわかります。 これらは「꾸미기」文化の中心的なアイテムなのです。 - 日本のポップカルチャーとステーショナリーへの強い支持
ぬいぐるみ・人形とステッカー・シールは、キーホルダーと並びトップ層を形成。マスキングテープ、メモ帳、スタンプなど、手帳や日記を飾るための文具類も非常に高い需要があります。日本の文具は、「꾸미기」のための重要な「デコレーション素材」として消費されていると考えられます。
- こだわりを反映するライフスタイル雑貨とニッチ市場
インテリア雑貨の中でも小物入れが人気で、身の回りをきれいに整理したいというニーズが強いことが伺えます。特筆すべきは、猫用フードや猫用おやつが高い注文数を記録している点です。これはペットを家族として大切にし、海外から高品質な専門品を取り寄せるほどこだわりの強い顧客層がいることを示しています。
中国の仕入れ詳細
中国市場の象徴が「手账(shǒu zhàng)」、すなわち手帳を創作的に飾る趣味の文化です。
- 世界最大級のステーショナリー「手账」文化
マスキングテープは、今回分析した全10地域の中で最多の注文数を記録しており、市場の熱狂ぶりを象徴しています。
さらに、ポストカード、ステッカー・シール、メモ帳といった紙製品やデコレーショングッズがランキング上位を独占。スタンプの人気も非常に高く、これらが「手账文化」を支える重要なツールとして消費されています。 - 日本のポップカルチャーを象徴するキャラクターグッズ
ぬいぐるみ・人形(アニメキャラ含む)はステーショナリーに次ぐ人気商品です。好きなキャラクターのステッカーやキーホルダーは、「手账」を飾る素材としても活用されるなど、ステーショナリー市場と相互に影響を与えながら市場を形成していると考えられます。 - デザイン性を重視した和食器・キッチン雑貨
他のアジア市場とは異なり、中国市場では日本のデザイン性を楽しむ食器・キッチン雑貨が強い存在感を示しています。湯のみは、全地域の中でも特に高い注文数を記録。マグカップも人気が高く、箸や箸置きなど、日本の食文化に関連するアイテムも安定して注文されています。
タイの仕入れ詳細
タイ市場は、実用性を重視する側面が際立っています。
- キャラクターグッズとトレンドファッション小物
ぬいぐるみ・人形(アニメキャラ含む)がトップの注文数を記録しています。非常にユニークな特徴として、ヘアクリップが他の多くの商品を抑えて圧倒的な人気を誇り、ヘアアレンジを含むファッションへの高い関心を物語っています。ポーチやキーホルダーも上位にランクインしています。 - キャラクター人気の延長線上にある実用雑貨
水筒がキャラクターグッズに次ぐ人気を誇り、お弁当箱も高い注文数を記録しています。タイでは環境意識の高まりからステンレス製の弁当箱が主流ですが、それとは対照的に日本のプラスチック製弁当箱や水筒が人気を集めているのは、実用的な需要というよりも、好きなキャラクターを所有したいという「キャラクターグッズの延長線上にある需要」が強いことを示唆しています。
同様に人気の高いコップ・タンブラーも含め、日本の製品が持つ高い機能性や安全性はもちろんのこと、特にそのデザイン性が海外のファンを魅了し、信頼を得ていると言えるでしょう。 - 高い健康・衛生意識を反映した商品
歯ブラシがヘルスケア用品の中で突出して人気が高く、口腔衛生への関心が非常に高いことがわかります。また、マスクや、熱帯気候ならではの除湿・除菌・消臭グッズ、殺虫・防虫グッズも高い需要があります。
ヨーロッパ市場(イギリスとフランス)の仕入れトレンドと成長カテゴリ

ヨーロッパ市場は、その仕入れ動向に非常に洗練された特徴が見られ、日本の製品の背景にある文化や美意識、職人技といった本質的な価値への深いリスペクトが共通トレンドです。主要なトレンドは、「①日本の『Art de Vivre(暮らしの美学)』の実践」「②創造性を刺激する高品質なステーショナリーとホビー」そして、「③自国の文化と共鳴する日本製品への関心」の3つに集約されます。
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イギリスの仕入れ詳細
イギリス市場は、強いステーショナリー人気を基盤としつつ、自国の文化と親和性の高い日本の「お茶」関連商品への関心の高さが最大の特徴です。
- ステーショナリーと日本のポップカルチャーへの強い支持
ステッカー・シールとマスキングテープが他のカテゴリを大きく引き離して仕入れられています。また、ぬいぐるみ・人形(アニメキャラ含む)も人気が高く、日本のポップカルチャーの影響力を示しています。 - 日本の「お茶」文化
湯のみが多く仕入れられ、さらに急須、箸置きといった関連商品も高い注文数を記録。飲料カテゴリで日本茶・中国茶が注文されている点も特徴です。これは昨今の抹茶ブームに伴い、イギリスでは多く仕入れられるようになったと考えられます。 - おうち時間を楽しむホビー・レジャー用品
フィギュア・模型のようなコレクション性の高いアイテムや、リラクゼーションのためのお香が安定した人気を誇ります。またイギリスではパズルも一定量仕入れられているのが特徴です。
フランスの仕入れ詳細
フランス市場も、アジア圏とは違いポップカルチャーよりも、日本の伝統的な美意識やそれらに根差したライフスタイルそのものへの関心が際立っています。
- 日本の「暮らしの美学」への強い憧れ
湯のみ、箸が全商品の中でもトップクラスの人気を誇ります。さらに急須、箸置き、大皿・中皿など、日本の食卓を構成する多様なアイテムが求められています。雑貨ではのれんとてぬぐいが人気で、一部店舗では扇子も仕入れられており日本の伝統的なものへの関心の高さがうかがえます。 - 創造性を刺激するステーショナリーとホビー
ステッカー・シールとマスキングテープは、定番の仕入れ商品として安定した需要があります。動物のオブジェやポストカードも人気があり、自分の空間を自分らしく飾ることを楽しむ文化が見られます。
北米市場(アメリカとカナダ)についてのトレンドと成長カテゴリ

北米市場は、巨大なホビー・クラフト市場の存在と、日本のオーセンティック(本物)な文化体験への強い関心がトレンドです。アジア市場がトレンド消費を牽引するのに対し、北米市場はより深く、専門的な趣味の世界を追求する顧客層が多いのが特徴です。主要トレンドは「①世界トップクラスのステーショナリー市場」「②『日本の伝統文化」そして、「③ポップカルチャーと実用性の両立」です。
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カナダの仕入れ詳細
カナダ市場は、アメリカ市場と共通する部分を持ちながらも、より深く日本の伝統文化に根差した商品への関心が高いという独自の特徴が見られます。
- ステーショナリーと日本のポップカルチャーへの強い需要
ステッカー・シールが圧倒的な人気を誇り、マスキングテープが続きます。DIYやジャーナリングを楽しむ層が厚いことを示しています。また、ぬいぐるみ・人形(アニメキャラ含む)も非常に人気が高く、日本のポップカルチャーが広く愛されています。 - 伝統的な「和」文化への深い共感と実践
てぬぐいとのれんが、カテゴリランキング上位に食い込んでいます。
さらに、着物・浴衣、甚平・作務衣といった和装や、扇子、帯といった関連小物への需要が、他の欧米諸国と比較して際立って高いです。これは日本の製品を文化体験ツールとして提供することに価値を見出している可能性を示唆します。 - 日本のデザインを愛する実用的なライフスタイル
湯のみは、食器カテゴリの中で抜きんでた人気を誇ります。ポーチやトートバッグなど、デザイン性と機能性を兼ね備えた日用品も安定して支持されており、生活の様々なシーンで日本の質の良いデザイン製品を揃えたいという傾向が見て取れます。
アメリカ合衆国の仕入れ詳細
アメリカはアジアに次いで多く仕入れられており、その仕入れ動向はホビー・クラフト市場としての側面が際立っています。
- 世界トップクラスのステーショナリー&クラフト雑貨
マスキングテープとステッカー・シールは、トップクラスの注文数を記録。ほかにもスタンプ、メモ帳など、あらゆるステーショナリー・クラフト雑貨が人気を誇ります。また特筆すべきは、刺繍糸、生地(綿)、刺繍キットといった、より本格的な手芸・クラフトの材料が多数注文されている点です。 - おうちで楽しむ本格「和」文化
湯のみ、箸置き、急須といった、日本の食文化や茶道に根差したアイテムが、他の欧米諸国では見られないほどの高い人気を集めており、アメリカもお茶・抹茶ブームの影響は受けているでしょう。またてぬぐいのような伝統的な雑貨も人気があり、家庭でも本格的な和の食卓を楽しみたいという顧客層が厚いと推測されます。 - キャラクター人気と実用的なファッション雑貨
ぬいぐるみ・人形(アニメキャラ含む)はステーショナリーに次ぐ人気を誇ります。ポーチ、トートバッグやキーホルダーなど、機能的でデザインの良いファッション小物が人気ですが、日常で使える実用的な関連グッズに人気が集中する傾向があります。
まとめ
事業者向けサイト「スーパーデリバリー」の注文データ分析から、海外での日本製品への需要は地域ごとに大きく異なることがわかりました。
全体として「ポップカルチャーと趣味の世界」「日々の暮らしを豊かにする実用雑貨」「日本の伝統美と文化体験」の3つの潮流が見られます。キャラクターグッズや文具、高品質で実用的な雑貨、そして日本の伝統的な製品が世界中で仕入れられています。
市場別の特徴は明確です。
- アジア
ポップカルチャーと連動した「カワイイ」商品やファッション小物。
- ヨーロッパ
日本の伝統や美意識、「丁寧な暮らし」を反映した商品。
- 北米
ホビー・クラフト用品や、本格的な和食器などの伝統産品。
画一的な戦略ではなく、各市場の文化や価値観に合わせ、日本の製品が持つ多様な魅力を的確に届けることが、今後の海外展開成功の鍵と言えます。