第6回目を迎えたフェアトレード企業「シサム工房」の朝活勉強会。2023年5月12日の勉強会は、ネパールから来日されたフェアトレード団体「MAHAGUTHI(マハグチ)」の代表を務める「スニルさん」にネパールの近況レポートをお聞きし、スニルさんへの質問会という内容でした。

フェアトレード商品をつくる、生産者側の視点に立ったお話を聞くことができたとても貴重な機会でしたので、今回も参加した内容をレポートします。

ネパールからフェアトレードNGOマハグチの代表「スニルさん」が来日

「MAHAGUTHI(マハグチ)」は、シサム工房がフェアトレードの商品生産を依頼している12のNGOの1つです。ネパールは手工芸が盛んな国でフェアトレードも広まっています。「MAHAGUTHI(マハグチ)」は1984年に隅に置かれた人々を助けていこうと設立されました。ネパールでは若者が出稼ぎのために海外へ出てしまい、今回の来日する際の飛行機でも、機内は若者でいっぱいで、チケットも取りにくい状況だったそうです。

世界中のフェアトレードの現場を知るスニルさんとはどんな人物?

スニルさんは、フェアトレードでネパールの課題を解決しようと、20年以上にわたり零細企業支援やフェアトレードの推進に取り組んでいます。

現在約1,100人のフェアトレードNGOの「Mahaguthi(マハグチ)」の作り手を束ね、団体のキーパーソンであるCEOのスニルさん。フェアトレード界のリーダーとしてアジアのみならずヨーロッパやアメリカなど世界中のフェアトレードの現場を飛び回っています。

ネパール国内のフェアトレード団体のコンソーシアムである「Fair Trade Group Nepal」の会長、フェアトレード組織の国際的ネットワークである「World Fair Trade Organization (WFTO)」のアジア代表理事、ネパール輸出企業家連盟(Federation of Export Entrepreneurs Nepal)の理事、社会起業家基金(ネパール社会福祉協議会/ネパール政府)のメンバーでもあります。ネパールの大学で教鞭も取っています。

【スニルさん経歴】
・ ネパール トリブバン大学経営学博士号取得(マーケティングと起業家精神)
・ 20年以上にわたり、零細企業支援やフェアトレードの推進に取り組む

【スニルさん現在の役職】
・CEO – マハグチ Mahaguthi Craft With Conscience ( フェアトレード社会的企業)
・ 会長 – Fair Trade Group Nepal (ネパール国内のフェアトレード団体のコンソーシアム)
・ WFTOアジア代表/理事 – WFTO・世界フェアトレード連盟(オランダ本部)
・理事 – WFTO世界フェアトレード連盟、アジア担当
・理事 – ネパール輸出企業家連盟(Federation of Export Entrepreneurs Nepal
・メンバー – 社会起業家基金(ネパール社会福祉協議会/ネパール政府)
・教員- Nepal Open University, ネパール

スニルさんが代表を務める「MAHAGUTHI(マハグチ)」が大切にしていることとは?

「MAHAGUTHI(マハグチ)」があるネパールには以下のような社会的な課題があります。

【ネパールが抱える社会的な課題】
・女性が貧しく、社会の隅で脇役、脆弱な状態
・失業
・不平等
・市場へのアクセスの欠如
・技術の知識が乏しい
・資源に乏しい

フェアトレードはこれらの社会的な課題を解決するビジネスであり、生産者からマーケットまでの透明性といかに商品にバリュー(価値)を載せられるかが大切であるとスニルさんは言います。

「ネパールには公的なサポートがないので、フェアトレード商品の売上を通じてすべてをまかなっている。そのため、お客様(消費者)の役割はマーケットの最前線にいる立場として、生産する現地側への生活に対する大きなインパクトを持っているということを知っていてほしい」ともおっしゃっていました。

このインパクトは言い換えると「お客様(消費者)の購入は変革への一票」ということです。その一票が生産者側の人生を変えていくと説明してくれました。

【人生を変えるということ】
・収入と生活保持
・職場環境改善
・技術向上の機会
・社会経済的ウェルビーイング(心も体も健康で幸せで、社会的にも満たされていること)
・所属感と安心感
・平等と公平性

また、2030年までのSDGs(地球環境問題や社会問題などを解決に導くために2015年に国連が定めた2030年まで行う17の目標と、より具体的な169のターゲット)の達成のために、WFTO(世界フェアトレード連盟 :World Fair Trade Organization)のメンバーとして環境とサステナビリティ(持続可能性)を大切にして活動していますと紹介してくれました。

教えてスニルさん!フェアトレードに関する参加者からの質問&回答を紹介

朝活に集まった参加者やシサム工房のスタッフがスニルさんに質問をしました。その回答をご紹介します。

──スニルさんがアジア代表をされているWFTO(World Fair Trade Organizationの略「世界フェアトレード連盟」) は世界中のどのくらいの人が関わっていますか?増えていますか?

スニルさん:だいたい75か国300ほどの組織が参加しています。コロナの感染拡大前は増加傾向でしたが、コロナ感染拡大とともに失速してしまいました。参加している組織は、シサム工房のようなバイヤー企業もあれば、田舎の小さな生産者もいます。

──どうして「MAHAGUTHI(マハグチ)」に入ったのですか?

スニルさん:私は2002年からフェアトレードに関わっていますが、その前は一般の企業でマーケティングの仕事をしていました。営業実績もあり、顧客をリッチにすることはできていましたが仕事に対して満足感が持てず、とある金曜の夜に突然退職したんです!その後は、フリーランスでコンサルティング業を行いビジネスの手助けをしていました。そしてマハグチに入り、最初は2年間だけ…と考えていました。マハグチでは、日々責任者として判断をし、決定をします。その日々の「YES/NO」がマハグチの生産者の生活を左右することに責任を感じ、大切な仕事だと思うようになりました。そして今に至っています。今ではマハグチを国内外に認知させることができ、とても誇りに思っています。

──マハグチの生産者さんのお給料は?

スニルさん:ネパール政府は月給1万5千ルピーほど(1円=1ルピー程度なので、日本円で1万5千円程度)を最低ラインとしています。マハグチでは月給2万8千~3万ルピーなので一般的な月給よりも多い月給です。高月給だけでなく、退職金や保険もあるので安心して働ける環境です。そのため稼ぎ手として家族の中でも世間的にも一目置かれるような存在に見られています。

マハグチの縫製部門で働く女性たち

──マハグチの生産者はどのようにして集まるのですか?

スニルさん:いまは組織が大きくなってきたこともあり生産者の集まり方は変わってきました。いまは、働いている人からの紹介が多くなっています。紹介以外には、こちらから生産者を訪ねて集めに行くこともあります。先日は西ネパールに出張してバスケットの生産者に会いに行ってきました。

──ネパールでは政治情勢などで材料調達が難しいと聞きました。実際のところどうですか?

スニルさん:コロナ感染拡大後は特に物価高騰や輸送費が上昇し、材料調達が厳しくなっています。というのもネパールはインドと中国に挟まれた小さな国なので、政治的にも経済的にもどうしても弱い立場になりがちです。スムーズに調達がしにくいことは確かですが、「何ができるか?」と常に探していくのがマハグチのスタイルなので、難しいながらも日々探求しています。

──マハグチには洋服以外のたくさんの部門がありますが、最近はどの部門が順調ですか?

スニルさん:洋服、焼き物が順調ですが、その時々によっても変わります。1,100名ほどの生産者がいますが、洋服を作っている縫製部門のほか、真鍮を使ったアクセサリーを作る部門やペーパー、石鹸、ミティラアートなどたくさんの部門があります。

──ネパールでは女性の地位が低いようですが、最近では女性も人前に出るようになったと聞きました。そのきかっけは何ですか?

スニルさん:一つの大きなきっかけは、家の外に出て働き収入を得たという経済的な面だと思います。稼ぎ手として家族を養うことができたり、家庭の収入面を支えることができると家庭内でのポジションが変わります。ネパールでは女性は家の中で働くことが多く、畑を耕したり、子守や家事をしたりと、金銭的な収入がないか圧倒的に少ない女性が多いです。それが外に出て収入を得るということは大きな変化なのです。

──ネパールの学校ではフェアトレードを子供たちが学んでますか?

スニルさん:残念ながら「いいえ」です。大学に行けば、Social Enterprise(ソーシャルエンタープライズ、日本語では「社会的企業」の意味)を学ぶ機会が出てきましたが、ネパールではフェアトレードを学ぶ機会というのはありません。

──縫製部門では5人に聴覚障害者が働いているとのことでしたが、他にもいるのですか?

スニルさん:縫製部門のビルの1階はペーパー部門なのですが、そこで障がいを持つ男性が働いています。

ルドゥラさんのように聴覚障害をもつ女性も5名働いています。安定した収入で家族の支えになっています。

──シサム工房で人気の「アロー(イラ草)」の原料が不足していると聞きましたがどうしてですか?

スニルさん:原料はジャンルグルに行けばあります。問題は、収穫する若者が出稼ぎで海外へ流出してしまっていないということなんです。

アローを使った春夏人気の帽子

──マハグチの商品でおすすめのものはありますか?

スニルさん:(微笑みながら)ぜひ日本の皆さんが欲しいものをおっしゃってください!

──マハグチには子育て中の女性もいますか?

スニルさん:はい。マハグチには子育て中の働く女性がたくさんいますよ。ネパールの一般的な会社には保育園はありません。でも、マハグチは子育中の女性も働ける環境を提供したいので、お子さんとスタッフが一緒にシャトルバスで出社して、子どもは職場の保育園に預け、スタッフが仕事に集中できるようにしています。

仕事を抜けて母乳を上げに行くことができる環境はネパールでは非常に珍しい

フェアトレードって何?の疑問を「シサムの朝活」で解決!

第6回の最後は、スニルさんが代表を務める「MAHAGUTHI(マハグチ)」の商品をシサム工房のスタッフが着用してカメラ越しに紹介してくれました。スニルさんはオリジナルで作ったフェアトレードのシャツを当日は着ていたそうです。

シサム工房では、月1回のペースで卸先様に対して「シサムの朝活toB」をZoomを使いオンラインで実施しています。フェアトレードの商品を仕入れるときやお客様に説明したり、店頭で陳列する際に役立つ、フェアトレードの知識を広げませんか?

過去開催の朝活の内容については、以下レポート記事でご覧いただけますので、ご興味ある方はぜひ今後開催する朝活にご参加ください。ご参加にあたっては、(1)シサム工房に直接お問い合わせするか、(2)スーパーデリバリー入会後にシサム工房と取引可能な状態となると開催のお知らせが届きますので、参加のお申し込みをお願いいたします。

シサム工房

sisam(シサム工房)/FAIR TRADE + design