「小さな手工芸に大きな心」をスローガンに、ネパールの首都カトマンズからフェアトレードで手編みのニットアイテムなどを届ける「Sana Hastakala(サナ ハスタカラ)」。フェアトレードブランド「シサム工房」で手編みニットのミトンや帽子などの人気アイテムを生産しています。今回はネパールから来日されていたサナ ハスタカラのロジーナ・タパさんにシサム工房主催のお話し会が開かれ、フェアトレードがネパールの人々にどのような変化をもたらし、襲い掛かる気候変動の問題にも対応していくかなどを直接お聞きすることができました。その様子をレポートいたします。
目次
小さな手工芸を世界に届ける、ネパールのフェアトレードNGO団体「Sana Hastakala(サナ ハスタカラ)」35年の歩み
今回のシサム工房のお話し会の主役は、シサム工房とのやり取りの窓口担当を担っているロジーナ・タパさん。サナ ハスタカラで働き始めたきっかけは、すでにサナ ハスタカラで働いていたお父さまのお誘い。「社会人のスタートに、1週間だけ働いてみようかな」と働き始め、気づいたら15年も経っていたそう。「私にとって働く場所であるのはもちろんのこと、もっといろんな面で意味のある場所だと思っている」と冒頭でお話しされました。
サナ ハスタカラの設立、歩み、これからの展望についてお聞きしていきます。

Sana Hastakala(サナ ハスタカラ)の商品をチェックする
「小さな工芸に大きな心」というスローガンのもと、1989年ユニセフの支援で5名でスタート
1989年にユニセフの支援を受けて設立されたNGO団体「Sana Hastakala(サナ ハスタカラ)」。設立から35年を超え、設立当初は5人だったメンバーは、現在は毎日出勤してくる内部メンバーの44名のほか、ネパール国内に点在する65グループ計1,200名ものメンバーで構成されています。今回のお話し会のメインとなるニット生産に携わる女性はそのうちの200名ほどです。
サナ ハスタカラはネパールに店舗も運営しており、設立当初はデザインや内装もユニセフが考えて作ってくれたそう。ネパールでは一般的な日干し煉瓦をインテリアに使っていたりと、ネパール現地の魅力もうかがえるお店です。
「サナ ハスタカラ」の「サナ」は小さいという意味、「ハスタカラ」は手工芸という意味です。この「小さな手工芸」という意味には、小さな手仕事に大きな想いを込め、「小さな工芸に大きな心」というスローガンで表現されています。ビジョンには「貧困削減と社会経済発展への貢献」を掲げ、貧困課題の解決、社会発展を目指す団体という位置づけです。
そもそもネパールには手工芸を作る人はたくさんいます。それは家族のためにニットを編むのが当たり前だからです。ニットは家族のために無償で編むものということが一般的なネパールで、ネパールの人々が作った製品がフェアトレードという仕組みを通して海外のマーケットにつながってきたのは、非常に大きな変化です。人生が変わったと言っても過言ではない、フェアトレードの力を「サナ ハスタカラ」で働く人々から知ることができます。
障害の有無も関係なく、みんなが安心して働ける場所
ロジーナさんいわく、サナ ハスタカラは家庭的なあたたかさがあるNGOで、実際に親子や兄弟・姉妹が一緒に働いているそう。
ネパールでは血縁関係があるとどちらかが辞めるのが一般的だそうですが、サナ ハスタカラでは、家族が一緒に働いていた方が組織のまとまりが生まれ、組織として強くなれるという考えがあるそう。「家族をスタッフとして迎い入れることで、フェアトレードはただお金を稼ぐことではなく、家族的な雰囲気の中で”他者を大事にすること”につながっている」とロジーナさんは言います。
”他者を大事にすること”は、障害を持つスタッフとの関係性作りでも垣間見れます。
サナ ハスタカラには、耳の不自由なスタッフも7名働いています。障害を持つスタッフは少数派ですが、サナ ハスタカラでは話せる側が基礎的な手話を習得して全員がコミュニケーションを取れるようにしているとのこと。耳が聞こえないアニシャさんは2004年から働くベテランリーダーですが、彼女はスティッチングからカッティングに昇進し、その後一番難しい仕事であるサンプルメイキングを担当するまでになりました。「才能は言葉より雄弁」という言葉の通り、障害の有無関係なく能力や技術が評価される職場となっています。
また、シングルマザーで働くバビタさんの例も教えてくれました。バビタさんはもともとサナ ハスタカラで働いていたメンバーでしたが、お子さんが3歳の時に旦那さんが亡くなり、シングルマザーとなりました。ネパールでは女性が社会に出て働くことは難しく、孤独や恐怖の中暮らしていたバビダさんでしたが、再び働くことになり、現在はシニアプロデューサーに昇格し、娘さんはアメリカに留学しています。このようにサナ ハスタカラでは、「尊厳」「排除しないこと」「平等な機会」を大切にし、社会で取り残されやすい人を取り残さないようにするための取り組みを行っています。
それから、2015年に発生したネパールでの大地震、社会が停滞したコロナ、そしてネパールが抱える慢性的な政治的な問題。これらの問題は「逆境こそ回復力」と捉え乗り越えてきました。コロナ禍では、1か月休業となったものの、1カ月半分の有休を出し、経済的な不安を抱えないように調整をしたり、ストレスから精神的な負荷を抱えたスタッフには、カウンセリングやリラックス方法を教えてくれる出張講座を呼んで受講してもらうなど、スタッフの経済面や心の安定を優先し、みんなが安心して働けるように工夫を重ねています。

フェアトレードがもたらす女性の立場の変化
「今回のお話し会で必ず伝えたいと思っていたの!」と語気を強めてお話しくださったのが、フェアトレードが女性の家庭内での立場を変え、社会での活躍を後押ししてきたという点です。
「私が幼かった頃、ネパールの女性たちは手編みのニットを作っていましたが、それはあくまで家族のために編むもの。つまり、いくら編んでも収入につながることはありませんでした。それが、30年ほど前から海外のバイヤーが製品として編み物を購入しれくれるようになり、手編みのニットが女性の収入源になったことは大きな変化となったんです」とロジーナさんは語り始めました。
ネパールでは女性は家事や育児を担う立場のみで、現金収入を得るというのは並大抵のことではありません。たとえ作ったものを販売しようとしても、立場の弱い女性はバイヤーから言われた値段で作る仕方なく安い値段で売りさばかれていました。
それが、この20年でネパールの仕組みはすごく変わったと言います。
「当初は、ネパールの習慣で商品を納品したらお金を受け取るのは旦那さんなど男性でした。しかしこれには問題があって、作った当人の女性たちにそのままお金が渡らないことがしばしばあったんです。そのため、サナ ハスタカラでは『作った女性たち本人に手渡そう!』と仕組みを変えました。」
対価を女性本人が受け取ることで、「家から出る理由」ができ、「お金の使い道を女性たちが自分で考えることできる」ようになったことは、女性たちの自己主張にもつながっていったそうです。価格設定にも疑問を持ち、バイヤーに伝えることができるようになったことは、より良い商品を作るための話し合いにもつながっているとのこと。ネパールの女性が自分たちが発言する権利を自覚し、発言が大事にされることでの自信が根付いてきたと言います。
これがロジーナさんがお話し会で伝えたかった、フェアトレードの小さな変化の積み重ねとして非常に大切な部分だと言います。
生産者と消費者との関係、そして地球環境を左右する立場としてサスティナビリティーを意識したものづくりの工夫
サナ ハスタカラは、サスティナビリティーと気候変動への課題解決の取り組みをより一層強化しています。
これまでは、アゾフリーの高級なヨーロッパの染料を使ったり、排水をトリートメントすることで河川の汚染の防止などを行ってきました。
これら以外にもできることを考え続けています。
最近では、「REDUSE」「REUSE」「RECYCLE」の3Rを推進。裁断した際に出てしまう端切れを廃棄せずに、端切れを組み合わせた製品を作り好評です。

また、3月に開催される国際女性デーでは、アイデアコンペを開催し、外部の人を招いて1~3位を決める予定です。賞金も付けて、スタッフからのさまざまな意見やアイデアを集めたいと思っています。
さらに最近ロジーナさんが力を入れているのが、カーボンフットプリントマッピングとトラッキングです。
「イギリスのブリティッシュカウンシルと共同で、生産から最後までの環境負荷を計測しているんです。染めの工程、編みの工程、タグ付け、アイロン掛け、それらで使われる照明量、そして消費者の手に渡り最終的に使い終わるまでの商品の一生を、ハンディクラフトとファストファッションとの比較でどのくらいの変化があるのかを調べています。」とのこと。
環境負荷の少ないものづくりでもあるフェアトレードが具体的にどのように地球環境の改善に役立っているのかは気になるところです。
そしてもう一つ、意欲的に取り組むのが商品タグで誰が作ったのかが分かるようにすること。「メリットは大きく2つあります。1つは誰が作っているか見えるようにすることで、作り手の励みになること。もうひとつは、万が一商品に不良があった場合でもチーム内の誰が携わった商品が分かることで改善点が分かり商品のクオリティを上げることができることです。」
フェアトレードだからこそできる「作り手」が見えるものづくりをさらに詳細にすることで、商品づくりに生かす姿勢には、職人たちの自負を感じます。そしてロジーナさんは「私たちは単に製品を作るのではなく”関係”を作っています」とおっしゃっていました。
日本から5,000キロも離れたネパールで、透明性のある生産過程をつくり、消費者の心に響くモノづくりの背景を知ることができました。

ネパールの手工芸が女性の地位向上に。フェアトレードが叶える商品も背景も魅力的な商品を「Sana Hastakala(サナ・ハスタカラ)」から
ロジーナさんがお話ししてくださったSana Hastakala(サナ・ハスタカラ)の商品をチェックしてみませんか?伝統技術を守り、特に女性たちの収入向上と、社会的地位向上を目指す生産者たちを応援することにもつながります。










