お店を運営していく上で、売上に関するさまざまなお悩みをお持ちの方は多いと思います。例えば入店率が低い、購入率が低い、客単価が少ないなど皆様のお店によって課題はいろいろあるでしょう。今回はそのようなお悩みを持つ企業に対してコンサルティングや教育などの活動をされている、株式会社ライトハウスの藤井雅範さんに、店舗の課題解決に繋がるVMD(ヴィジュアル・マーチャンダイジング)の基礎知識を訊いてみました。
VMDという単語になじみのない方も、本ブログをきっかけにVMDというものを理解して実践していただければ幸いです。
目次
「大手アパレル」の経験から「売り場づくり」のプロへ転身した「藤井雅範」さん
今回お話を伺ったのは、株式会社ライトハウスの藤井雅範さん。もともとは大手アパレルメーカーでVMD専門職として28年間従事し、その経験を基に独立して株式会社ライトハウスを設立。「売り場づくり」のプロとして、いろいろなメーカーやブランド、店舗の売上アップのお手伝いをはじめ、ギフトショーなどの展示会での講演、雑誌媒体への寄稿などさまざまな活動をされています。
売り場の体験価値を高める「VMD(ヴィジュアル・マーチャンダイジング)」とは?
──藤井さん、今日はよろしくお願いします。まずは、VMDとは何か教えていただけますでしょうか。
藤井様:VMDは、Visual Merchandising(ヴィジュアル・マーチャンダイジング)の略なのですが、直訳すれば「商品政策の視覚化」ですね。では具体的には何なのかを知っているようで知らない人の方がまだまだ多いのではないかと思います。
私は、VMDを『お客様に企業理念を表現する活動』と定義しています。
──何となくですが、VMD=「店頭のディスプレイで良く見せて売上に繋げる」みたいなイメージを持っていました。
藤井様:店頭ディスプレイはVMDの中の一つの手法で、確かに大切な技術ではありますし、昔はそれだけでも良かった時代もありました。ただ、現代のVMDはそれだけではないのです。商品、接客応対、マスメディア、ソーシャルメディア、店頭ディスプレイまで、五感に触れるもの全てに一貫性を持たせて表現・伝えていくことだと私は考えております。
VMDを構成する3つの要素
藤井様:VMDを構成する3つの要素についても触れておきます。3つの要素はVP・PP・IPと呼ばれています。
VPとは「ヴィジュアル・プレゼンテーション」の略で、主にショーウインドウやメインのディスプレイのこと。
PPは「ポイント・オブ・パーチェス・プレゼンテーション」の略で、各売り場へ誘導するためにその売り場で展開されている商品をピックアップして見せるディスプレイのこと。
IPは「アイテム・プレゼンテーション」の略で、各売り場で実際に商品を手に取れる陳列表現のこと。
となります。
VP・PP・IPそれぞれの呼び名についているプレゼンテーションですが、プレゼンテーションというと、どんなイメージを抱きますか?直訳すると「表現、提示、紹介」なので、会議や商談でプレゼンテーションをするというと、どうしても売り込んだり説得したりするイメージが付きまといますよね。
しかしよくよく考えてみるとプレゼンテーションの語源は“プレゼント=贈り物”で、一方的に売り込んだりするものではないのです。VMDを構成する3つの要素、VP・PP・IP。これを考えるときも、お客様に贈り物をする気持ちで売り場での体験価値を高めるプランニングをします。
売り場づくりに必要とされる「情報キャッチアップ」と「企画編集力」
藤井様:ファッションや雑貨は必ずしも生きていく上で必要なものではありません。お米やガソリンを買うのとは訳が違います。だからこそ、購入するまでのお手伝いが必要です。それには店頭での表現が大切です。しっかりと情報をキャッチアップして、それをもとにVMDのプランニングをして気づきや体験価値のある売り場づくりをします。
モノと情報があふれ選択肢が多すぎる世の中
藤井様:今、私たちの周りはモノと情報があふれかえっており、一つのモノを買うというだけでも選択肢がたくさんありすぎて選ぶのが大変です。ファッションを買うときも昔ならわざわざ大きな街に出かけて百貨店や専門店で購入していましたよね。今はどうでしょう?大型ショッピングセンターが至る所にあります。家にいながらでもネットでも購入できるので、同じブランド、ショップから購入する場合でも、オンラインオフラインを選べるようになってきています。とにかく選択肢だらけの世の中です。
少子高齢化による購買人口の減少
藤井様:かたやファッションや雑貨を購買する人口はどうなっているかというと、ターゲットとなる人口は少子高齢化により確実に減少し続けています。そのような背景の中で来店して購入していただくというのは昔よりも確実にハードルが上がっています。だからこそVMDが必要なのです。
一点の商品からライフスタイルまでイメージさせる
藤井様:今日は何となくブラウスを見てみようかなってお店をのぞいていろいろ見ているうちに
結局ワンピースを買ってしまったというようなことはよくありますよね?
さらに、それまでは全然興味のなかったアクセサリーをディスプレイやスタッフのおすすめを参考につい買ってしまったということもありませんか?お客様は、お店に来る前から明確に自分が欲しいものが決まっている方ばかりではないのです。だからそのお手伝いが必要です。それには店頭での表現が大切です。
お店に入って、商品に触れて自分の隠された欲求に気づいていただくのです。一点の商品からライフスタイルまでイメージを広げていただく商品の価値を最大限広げてご提案することです。
これがVMDの神髄でもあると考えています。
──確かに、本来買う予定がなかったモノに価値を感じて、思わず衝動買いをしたような体験はたくさんあります。あれはVMDによるものだったのですね。
藤井様:はい。良い意味での衝動買いだったのではないかと思います。
お店の思いや商品の価値を五感で伝えることが「VMD」
藤井様:先ほどもお伝えしましたが、VMD=店頭ディスプレイだけではありません。昔はディスプレイだけで効果が出ていた時代もありますが、現代は店頭ディスプレイだけでは、なかなか効果が出なくなっているのです。そのため、私自身の中でもVMDの定義を時代に応じて進化させています。視覚的に表現すること(ディスプレイ)から、視覚をメインにした五感でお店の思いや商品価値を伝える活動というものが現代におけるVMDだと考えております。
現代のお店の思いや価値を伝える上で欠かせない「SNS」の活用
現代においてはSNSを活用して発信することも欠かせません。SNSでの発信も立派なVMDの一つなのです。お店で見たディスプレイイメージとSNSで見た商品イメージがバラバラだったら伝わりにくいので、一貫性を持たせることが大事です。SNSと店頭で商品の見え方をしっかり連携させておくだけでもだいぶ効果が違います。
──なるほど。店頭ディスプレイだけやってればいいわけではないんですね。
藤井様:そうなんです。昔は競合店なども少なく、ディスプレイだけで効果が出ていた時代もありますし、もちろん今でも見せる技術というのはとても大切です。ただ、ソーシャルメディアなどの普及により現代は店頭ディスプレイだけでは、なかなか効果が出なくなっているのです。
一例ですが、ディスプレイとスタッフが着るコーディネートを関連性の高いもの(カラー、素材、着回しなど)にして一緒に撮影したり、店内でスタッフのコーディネートを撮影して背景にさりげなくディスプレイを映してそれをSNSに投稿する。
SNSを見るお客さんからすれば、店舗のことを思い出すきっかけになったり、久しぶりに店舗へ出掛けてみたくなったり。店頭を見るお客さんからすれば、お店のディスプレイが見やすいと店に入りたくなったり、商品に触れたくなったりします。大切なのは、店頭のVMDはVMD、SNSはSNSと分けずに連動して考えることです。SNS発信と店頭表現が一貫性が出るので、その分売り上げにもつながりやすいのです。
商品の価値をお客様に伝えるなら「VMD」を取り入れよう
藤井様:VMDでは一度にたくさんの人に瞬時にライフシーンを伝えて購入してもらうことも可能です。
お店に来店されてから商品選択に至るまでのプロセスと仕掛けをVMDで表現すると以下の通りです。
(1)VP(ショーウインドウやメインのディスプレイ)で店前を通る人を惹き付ける。
(2)PP(売り場で展開されている商品をピックアップして見せるディスプレイ)で売り場へ誘う。
(3)IP(各売り場で実際に商品を手に取れる陳列)で選択していただく。
かんたんに伝えると上記のようになりますが、店内の中にストーリーと意図をもたらしてアプローチしていきます。
商品の価値をわかり易くお客様に伝えて、表現することで売上を上積みすることが出来るのです。VMDを取り入れて商品価値を伝えてみましょう。
お店の価値が再発見できる「VMD」における課題解決策
藤井様:お店が持っている売上課題はお店によってさまざまだとは思いますが、VMDによってその課題を解決することだってできます。
──VMDで課題を解決ですか?
藤井様:そうです。まず課題に関しては売り上げを構成する要素を分解していくと、今自分のお店はどこに課題があるのか把握できます。
売り上げを分解して課題を把握する
売上を分析するときによく以下の要素に分解して見ることがあります。
①売上=購入客数×客単価
②購入客数=入店客数×購買率
③客単価=平均お買い上げ単価×平均お買い上げ枚数
さらに
④入店客数=店前通行量×入店率
に分解できます。
売上を構成する要素として上記の数値がよく使われますよね。売上をアップさせるためには、これらのどの数値でもアップすれば売上は向上するということです。
何が課題か分かれば「対応策が必ず見つかる」
藤井様:たとえば、立地的にどうしても入店客数に限界があるのなら、購買率をアップさせれば良いのです。購買率をアップさせるためには、購買率を上げるための工夫が必要です。もしもライフスタイルショップで店内の回遊導線に改善点があるならば、そこを改善することで回遊導線が延び、滞在時間が増え、商品と接触する機会も増して購買率のアップに繋がります。このように自店にとって何が課題かわかれば対応策は必ず見つかります。課題ごとの事例はまた別の機会に詳しくご説明します。
日々の小さな記録(入店客数、購入客数)も気づきを得る上で大切
藤井様:お店が抱える課題に気付くには材料となるデータが必要です。日々の小さな記録(入店客数、購入客数など)はとても大切です。これらをしっかりデータとして残しておくことで気づきを得るきっかけになりますので、日々の記録をしっかりと残すようにしましょう。
あなたのお店にもできる「VMD」を実践していこう
今回は、VMDの基礎知識に関して藤井さんにお伺いしました。より具体的な事例なども今後ご紹介して、皆様にも実践していただけるような内容を発信していきます。
・藤井雅範様の企業HP:株式会社ライトハウス
・藤井雅範様のInstagram:@vmdlighthouse