
日本の本州西部に位置し、日本海と瀬戸内海に面する多様な個性を持つ中国地方。今回、卸・仕入れサイト「スーパーデリバリー」の実際の注文データに基づき、中国地方の仕入れ傾向を分析しました。
その結果、事業者一人ひとりの仕入れ熱量をより正確に反映する「1会員あたりの注文点数」という指標で深掘りしたところ、地域的特性から全国の他地域とは異なる注目すべき特色が見出されました。
このレポートでは、広島・岡山に代表される山陽地方の「都市型ライフスタイル消費」と、島根・鳥取に見られる山陰地方の「暮らしや文化へのこだわり消費」という明確なコントラストを中心に、これらの特色が特に顕著な商品カテゴリを厳選し、その背景と要因を解説いたします。
目次
調査概要
- 調査期間: 2024年5月~2025年4月
- 調査対象: 「スーパーデリバリー」国内会員(中国5県)による注文データ及び会員登録数
- 分析対象地域: 鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県
- 算出方法: 主要ジャンル別に「1会員あたりの注文点数」を算出。これを基に比較分析。
- 参考資料: 総務省統計局「統計でみる都道府県のすがた 2025」
(https://www.stat.go.jp/data/k-sugata/naiyou.html)
中国地方の地域的な特徴と関連するカテゴリ
中国地方は、北部の日本海側に位置する山陰地方(鳥取県、島根県)と、南部の瀬戸内海側に位置する山陽地方(岡山県、広島県、山口県)に大別され、それぞれが異なる気候、人口、産業の特色を持っています。この多様性と各県の個性が、商品カテゴリ別の仕入れ動向にどのように反映されているのかを、複数の視点から調査しました。
地理と気候活動的な「山陽の晴れ文化」と、豊かな「山陰の家時間」
山陽地方は「瀬戸内海式気候」の影響で年間を通じて温暖で晴れの日が多く、特に広島県(年間日照時間2,042.8時間)と「晴れの国」を標榜する岡山県(同2,028.9時間)は、全国でもトップクラスの日照時間を誇ります。
この恵まれた気候は、人々のライフスタイルを活動的にし、屋外での消費を促進します。 一方、山陰地方は年間を通じて降水日数が多いのが特徴です。また、冬季は曇天が多く日照時間も比較的短いため、必然的に屋内で過ごす「家時間」が長くなる傾向にあります。
人口動態:都市の「トレンド市場」と、地域の「寄り添い市場」
広島市・岡山市という二大都市を擁する山陽地方は、若者・ファミリー層の人口が集積する中国地方のエンジンです。
これらの都市部は、最新のトレンドや情報に敏感な消費者が多く、活気ある市場を形成しています。 対照的に、山口県(高齢化率35.2%)や島根県(同34.8%)は全国でも特に高齢化が進んだ「成熟した地域」です。ここでは、量的拡大よりも、一人ひとりの生活に寄り添う商品への需要が顕著になります。
産業構造:山陽の「BtoB需要」と、山陰の「専門職需要」
山陽地方は、岡山県の水島コンビナート(石油化学)、広島県の自動車関連産業、山口県の化学工業など、日本のものづくりを支える工業地帯が瀬戸内海沿岸に広がっています。多くの企業が集積し、経済活動が活発なことが、仕入れ動向にも色濃く反映されています。 かたや山陰地方は、豊かな自然を背景とした農業や漁業といった第一次産業が暮らしの中心です。
生活文化:文化を育む「持ち家」と、経済を動かす「クルマ社会」
鳥取県の持ち家率は70.5%で全国1位を誇るなど、中国地方は一戸建て志向が非常に強い地域です。1住宅あたりの延べ面積も全国平均を上回る県が多く、広く快適な居住空間が、独自の消費文化を育んでいます。
また、中国地方は自家用乗用車の世帯あたり普及台数が全国トップクラスの「クルマ社会」でもあります。これは人々の移動や購買行動の基盤となっています。
中国地方で特色があった仕入れカテゴリを紹介
てぬぐい | バス用品 ・入浴剤 | 和菓子 | お香・アロマグッズ | |
1位 | 島根県 | 島根県 | 島根県 | 広島県 |
2位 | 岡山県 | 岡山県 | 岡山県 | 岡山県 |
3位 | 広島県 | 広島県 | 広島県 | 島根県 |
コーヒー・ココア | レッグウェア・靴下 | 作業用手袋・腕カバー | レトルト・インスタント食品 | |
1位 | 広島県 | 岡山県 | 鳥取県 | 鳥取県 |
2位 | 岡山県 | 島根県 | 島根県 | 広島県 |
3位 | 鳥取県 | 山口県 | 広島県 | 岡山県 |
中国地方・山陰における仕入れの特徴
てぬぐい(島根県)
伝統と日常の美意識が交差する市場 島根県における「てぬぐい」の1会員あたりの注文点数は、2位の岡山県に4倍以上の大差をつけてトップとなりました。この主な要因は、和装品店や特定の観光地にある店舗からの大量仕入れです。加えて、若者や外国人観光客にも魅力的なモダンで多様なデザインのてぬぐいを揃えていることも、全国有数の観光地における土産物としての強い需要につながっていると考えられます。
入浴剤・バス用品(島根県・鳥取県)
温泉文化が生んだ「おうち癒し」需要 「入浴剤・バス用品」カテゴリにおいて、島根県と鳥取県が岡山県や広島県を上回り、山陰勢の需要の高さが際立ちました。この要因として、まず気候的要因に加え、玉造温泉や皆生温泉に代表される豊かな温泉文化があげられます。
県民にとって入浴は「体を温め、心身を癒す」ための重要な習慣であり、この文化が「自宅でも気軽に癒されたい」というニーズを生み出し、質の高い入浴剤やバス用品の仕入れを促進していると見られます。 また、特徴的な点として、両県ではインテリアやリフォーム関連業者による仕入れも目立ちます。これは、バスタイムをより豊かにする空間づくりの一環として商品が選ばれていることを示唆しており、「おうち時間」の質向上への関心も、この需要を支える一因となっているようです。
和菓子(島根県・鳥取県)
お茶の時間を大切にする地域の食文化 「和菓子」カテゴリにおいても、山陰地方の特異性が際立ちます。特に一会員あたりの購入数が島根県が広島県の2倍以上の数値を示したほか、「煎餅・おかき」では鳥取県が高い関心を示しました。 これは、山陰地方、特に島根県松江市周辺で根付いている茶の湯文化が関係しているのかもしれません。
家庭でのお茶の時間や、来客時のおもてなしとして「和菓子」が定番であることはもちろん、地域コミュニティにおける贈答品としても頻繁に利用されていることがうかがえます。事業者は、こうした地域に密着した安定需要に応えるため、多様な和菓子を積極的に取り揃えていると考えられます。
【山陽】アクティブな「都市型ライフスタイル消費」
中国地方の経済を牽引する広島県と岡山県。この両県では、ファッションや趣味といった、日々の暮らしを豊かにするカテゴリにおいて、事業者一人ひとりの仕入れ熱意が高いことが分かりました。そこには、トレンドに敏感で、自分のライフスタイルを大切にするアクティブな消費者の姿が映し出されています。
岡山「足元のおしゃれ」に見るファッションへのこだわり
古くから交通の要衝として栄え、人々の交流が盛んな岡山県。その特性は、現代の活発なライフスタイルを象徴するカテゴリに表れています。
「レッグウェア・靴下」の1会員あたりの注文点数は、広島の3倍以上に達しており、このカテゴリへの極めて高い関心がうかがえます。その背景には、岡山市中心部や倉敷美観地区に、全国的に有名なアパレル店や個性的なセレクトショップが集積していることがあげられます。
「国産デニムの聖地」として知られる児島地区の存在も、県全体のファッションへの意識を高めているかもしれません。コーディネートを完成させる「足元のおしゃれ」にまでこだわる消費者が多いと推測されます。事業者は、こうしたファッション感度の高い顧客層を満足させるため、定番品からデザイン性の高いものまで、幅広い品揃えを熱心に行っているのでしょう。
広島際立つ「リラクゼーション関連」の仕入れ動向
中国地方最大の人口を擁する広島県では、大都市ならではの需要の傾向が見られます。特筆すべきは「癒し」への関心の高さです。
「お香・アロマグッズ」カテゴリの1会員あたり注文点数は、2位の岡山に5倍以上の大差をつけており、都市生活におけるリラクゼーションへの強い需要がうかがえます。 対照的に「コーヒー・ココア」カテゴリに目を向けると、1会員あたりの注文点数では岡山が広島を上回る結果が出ています。
これは、広島がオフィス需要などの「量的消費」が中心であるのに対し、岡山ではより専門的な商品を求める「質的消費」が活発である可能性を示唆しており、両県のカフェ文化の異なる成熟の形を映し出しているのかもしれません。
その他特徴的なカテゴリ
地域ごとの産業や暮らし方の違いが、特定のカテゴリにおける際立った需要として表れています。
特に鳥取県では、データから二つの異なる顔が浮かび上がりました。一つは、盛んな第一次産業を背景とした「プロの仕事」の顔です。梨・白ネギといった農業や、カニ・イカなどを獲る日本海での漁業では、夏の猛暑や冬の厳しい寒さといった過酷な環境下での作業が欠かせません。そのため、現場の必需品である「作業用手袋・腕カバー」**の仕入れが極めて高い水準となっています。
もう一つは、「暮らしの合理性」を追求する顔です。「レトルト・インスタント食品」のカテゴリでは、1会員あたりの注文点数が2位の広島県に約8倍もの大差をつける驚異的な数値を記録しました。
これは、共働き世帯率の高さや単身世帯の多さといった社会構造を背景に、日々の食卓を支える必需品として、カレーやパスタソースなどが力強く求められていることを物語っています。
また、山口県では「マスク」の需要が特徴的です。1会員あたりの注文点数は3.33点と、岡山県や広島県を上回り、トップクラスの高い数値を示しています。
まとめ:多様な地域性が生み出す、中国地方の消費トレンド
本調査では、「1会員あたりの注文点数」という独自の指標から、中国地方の多様な仕入れ実態を明らかにしました。
その結果、広島・岡山を中心とする山陽地方では、ファッションや癒やしグッズなど個人のライフスタイルを彩る**「都市型消費」が活発である一方、島根・鳥取の山陰地方では、てぬぐいや和菓子、入浴剤といった地域の文化や家での時間を豊かにする「こだわり消費」**が際立つという、明確なコントラストが浮かび上がりました。
さらに、鳥取県の第一次産業を支える「プロ需要」と暮らしの「合理性」が共存する姿や、山口県の堅実な消費動向など、各県が持つ独自の産業や暮らし方もデータに色濃く反映されています。
このように、中国地方の市場は決して一つではなく、各県の気候風土、産業、文化に根差した多様なニーズで成り立っています。事業者にとって、この地域ごとの特性を深く理解し、それぞれに寄り添った商品提案を行うことが、ビジネス成功の鍵となると言えるでしょう。
- 本レポートでは卸・仕入れサイト「スーパーデリバリー」における実際の取引データに基づき、算出したものです。
- これはスーパーデリバリー上における中国地方の需要動向の一側面を示すものであり、特定のカテゴリ、個別の商品の人気を保証するものではありません。