環境・人・社会に配慮した”思いやり”のエシカル理念普及とともに、貧困削減・環境保護・地域貢献につながるフェアトレードを推進する原田さとみさんをゲストに迎え「エシカルを一緒に考える、明日からエシカルなお店になるヒント」をテーマにトークセッションを開催しました。
目次
「エシカルでいきましょ」を生む原点
原田さとみさんの紹介
いつも「世界に優しく、地域に楽しく、自分に美しく」をテーマに、フェアトレードタウン運動とエシカル消費の推進に取り組まれている、原田さとみさん。
パリ在住の経験を持ち、現在は生まれ育った名古屋にお住まいです。モデルとしてスタートした後、東海圏を中心にタレント活動した経験を活かし、JICA中部オフィシャルサポーターとして海外と繫がり、エシカルやフェアトレード関連のトークショー等の活動も行っています。
原田さとみさんが活躍されている、フェアトレードタウンやエシカルを推進する企業および団体の一部をご紹介します。
◆エシカル・ペネロープ株式会社【代表取締役】
◆一般社団法人 日本フェアトレード・フォーラム(FTFJ)【代表理事】/ 日本でフェアトレードタウンを認可しフェアトレードを推進する団体です。
◆一般社団法人 日本エシカル推進協議会(JEI)【理事】/ 日本でエシカルを推進する団体です。
環境・人・社会に配慮した「思いやり」のエシカル理念の普及とともに、貧困削減・環境保護・地域貢献に繋がるフェアトレードを推進されています。
子育てをきっかけに「フェアトレード」と出会う
私(原田さとみ)が、フェアトレードと出会うキッカケとなったのはチョコレートでした。
途上国やチョコレートの原材料(カカオ)の生産地では、児童労働や強制労働が強いられる厳しい環境が存在することを新聞で知ったのです。記事にはそのような環境是正を目的として、フェアトレードのチョコレートが発売されたと記載されていました。
「フェアトレード」と聞くと、真っ先にチョコレートを思い浮かべる方が多いと思います。私も同じだったのです。
そして、フェアトレードのチョコレートを探して購入・消費することをスタート。当時経営していたお店で、フェアトレードのチョコレートの取り扱いも始めました。
食べると笑顔がこぼれる、甘くて幸せの象徴的存在のチョコレート。その生産背景には、強制的に親元から引き離されて、過酷で危険を伴う作業を強いられている子どもたちがいるのです。
この現実を知ったとき、親として心が震えました。
これまでお伝えしたような辛い思いを、世界中の子どもたちにしてほしくないとの想いからフェアトレードとの関わりをスタートさせたのです。
原田さとみさんが考えるフェアトレードとは?
フェアトレードとは、「人・地球・社会にやさしい取り組み」のことです。
アジアやアフリカ、中南米などの地域に暮らす女性や小規模農家をはじめとする社会的・経済的立場の弱い人々に仕事の機会を創出し、公正な対価を支払います。それにより、人々が自らの力で生活の向上や自立することを可能とし、児童労働や貧困問題の解決につなげていく取り組みです。
そのため、寄付とは性質が異なります。フェアトレードはビジネスの上で成立するものです。
フェアトレードは「公平で平等な、おもいやり、おかげさま貿易」といった側面も持っています。
農薬や化学肥料に頼らない自然農法や生産地で採れる自然素材と伝統技術、手仕事を活かした生産活動を行うことで、地域の文化や伝統、環境を守り、持続可能な社会の実現を目指しているのです。
農薬を使用しない理由は、私たち消費者が食べたり着たりする際に、悪影響があるからだけではありません。それ以上に、生産者の方々が農薬の近くで作業することで健康を害したり、命の危険から守られるようにするためです。 農薬の使用は地球環境を汚すことにも繫がります。環境保護のためにも、農薬や化学肥料に頼らない方法をフェアトレードでは推進しています。
エシカルな活動・ファッションの提案
原田さとみさんの活動転機(1)
2007年頃から、自分が経営するお店で販売するお洋服にフェアトレードを取り入れ始めました。その後、フェアトレードからエシカル・ファッションに結びついていくことになります。
パリが大好きな私は、パリに住んでいた経験があります。
その関係で、年に2回パリで開催されるファッションウィークに商品の買い付けに赴き、ファッションのセレクトショップを営んでいました。このお店でチョコレートの販売をすることで、フェアトレードとの関わりがスタートしたのです。
その後、徐々にメイン商材のお洋服もフェアトレードへと移行することを考え始めます。フェアトレードのお洋服を購入するために、北欧をはじめとする様々な地域を探し回りました。しかし残念ながら、当時はフェアトレード・ファッションの商品でお店を満たすことは叶いませんでした。
とはいえ、フェアトレード・ファッション探しをあきらめたわけではありません。いつも足を運んでいたパリの展示会で、環境に配慮しているもの、社会課題の解決に取り組んでいるものを探している最中、行き当たったのがエシカル・ファッションだったのです。
パリの展示会のカテゴリーに「エシカル・ファッション」が設けられたのです。その展示会で提示された、エシカルを定義づけるアイコンは、次の9つでした。
①フェアトレード(公正な取引・貿易)
②オーガニック(有機栽培・天然・自然素材)
③アップサイクル(リサイクル / リユース / リデュース)
④サスティナブル(持続可能)
⑤クラフトマンシップ(伝統技術継承)
⑥ローカルメイド(地産地消)
⑦アニマルフレンドリー(動物配慮)
⑧ウェイストレス(ごみ排出削減)
⑨ソーシャルプロダクツ(社会貢献)
エシカル・ファッションとの出会いは、私にとって衝撃的でした。フェアトレードだけではなかったのです。エシカルとして、表現がより細分化されたことによって、エシカル・ファッションへの理解が深まりました。
その後、パリの展示会で様々なブランドからエシカル・ファッションを買い付けるようになったのです。
私がショップで掲げたエシカルの理念は、次の4つの内容になります。
①地球環境に負担の少ないオーガニック素材や天然・自然素材、リサイクル素材などを使用。
②生産者に対して正しい労働条件と公正な賃金で、人や社会への配慮のあるフェアトレードであること。
③地域に伝わる伝統技術・製法・産業を活かし、継承する努力をする。
④魅力的なデザインで、確かな品質であること。
④に掲げた内容は重要でありながらも、15年程前には意外と忘れられがちなものでした。「フェアトレード商品で誰かの助けになっているのだから購入した方がいい」といった押し付けではなく、商品そのものが「ステキである」「着心地がいい」「美味しい」「感性に合っている」「欲しいものだった」ということでお客様にご購入いただき、リピートにつなげる必要があるのです。
エシカル(ethical)には、「倫理的な・道義的な」といった意味があります。簡単に言い換えると「思いやり」ということです。
◆ファッションショーで使用する洋服の事例
フェアトレードの素材を用いたエシカル・ファッションのファッションショーで、モデルが着用するお洋服を、アフリカの生地を使用して名古屋で製作。無地の生地には、地元・尾州の毛織物産地のデッドストックを使用。そのため、ファッションロスの削減にも貢献することに。
◆フェアトレード&エシカル・ファッション専門店「エシカル・ペネロープ」
2018年まで名古屋テレビ塔の1階で営業していた「エシカル・ペネロープ」。このお店は最初のお店を閉めた後、フェアトレード&エシカル・ファッション専門店としてオープンしました。
特徴的だったのは、お土産も販売していたことです。もちろん、フェアトレードでお土産を作っていました。基準量を満たすだけフェアトレードの砂糖を使用したキャンディーは、フェアトレード認証ラベルを付けて販売。フェアトレードについて知らないお客様も、間接的にフェアトレードの消費者になっていました。
◆名古屋が誇るエシカル・アクセサリーショップ「BASEY(ベイジー)」
名古屋には「BASEY(ベイジー)」というエシカル・アクセサリーショップがあります。ステキなアクセサリーを取り揃えているお店です。アクセサリー・パーツの素材には、廃材となった貝殻や牛の角等を加工して作っています。
一例として、ルワンダにある元ストリートチルドレンが働く工房をご紹介します。エシカルでは動物愛護の観点から、基本的に動物性のものは使用しませんが、食品として食べられた後のごみとして廃棄される牛の角を加工しています。アクセサリーのために動物を殺さず、残ったモノを活用しているのです。
このような廃棄される牛の角や革は、エシカル・ファッションの材料として認められています。
「BASEY(ベイジー)」では、アクセサリー・パーツとなった素材を日本人が好むアクセサリーにして販売しているのです。
きちんとしたマーケティングを行い、今の女性が欲しいと思うデザインを採用している「BASEY(ベイジー)」のアクセサリーは大人気。日本でしっかりと販売することで、生産地の方々のお仕事も継続可能となっています。
ちなみに、コロナ禍でもかなり売れたようで、生産地の方たちも喜ばれていたとのことです。
◆パリの少し変わったフェアトレードの事例
エシカル・ファッションショーというパリの展示会で出会った業者さんは、少し変わったフェアトレードを行っています。素材にはアフリカで生産されるオーガニックを使用。お洋服は専門的な場所で作っていますが、ぬいぐるみやお人形等はパリに住んでいる移民の方々の手縫いです。
パリ在住の移民の方々はお仕事が少ないので、働ける機会を提供するという発想はとても大事なことだと思います。
◆地域内・流域内フェアトレード
木曽川流域で行われているフェアトレードもご紹介します。
名古屋は木曽川の水を飲料水としています。しかし木曽川の上流域が健全な森でなければ、美味しい水はいただけません。川の上流域とモノを消費する下流域の交流は重要です。
ここにフェアトレードの理念を当てはめると次のようになります。
●上流域が健全な状態であること。
●上流域の産品をたくさん流通させること。
●間伐材等を使用して森を保全すること。
こういったことが大切です。もちろん、伝統工芸も関わってきます。
オーガニックやアップサイクル、サスティナブルといったフェアトレードの要素が満載です。
販売グッズの例としては、有松鳴海絞の廃棄された着物の端切れや間伐材を用いたテレビ塔を模したお土産品を作っていました。
原田さとみさんの活動転機(2)
2013年、バングラディシュの縫製工場「ラナ・プラザ」の崩落事故が発生し、多くの方々が亡くなられました。4,000人近くの人たちが生き埋めになったと聞いています。1,130人以上の縫子さんたちが亡くなったのです。
この縫製工場の問題は、劣悪な環境での労働を強いていたこと、ビルの上に建物を増築していたこと、狭い空間にミシンを詰め込んでいたこと、古い建造物でありながらメンテナンスもされていなかったこと等の悪条件が重なっていたことでした。
建物の亀裂に気付いた従業員が工場長に報告をしましたが、労働組合がなく、働く方々の権利が保たれていないため、聞き入れてもらえなかったのです。こういった労働環境は決して良いものではありません。
このビルが崩落したのは、従業員の意見を聞き入れなかった上層部の人たちの責任だと思われるかもしれません。しかし、何も知らずにこの企業の商品を購入していた私たちには責任はないのでしょうか?
「ラナ・プラザ」で作られていたのは、いわゆるファストファッションです。今は、世界中で安いものが喜ばれる状況にあります。ですが、「その安さで、どうして製品を作ることができるのだろう?」と考えていただきたいのです。購入者である私たちも、加害者の一部であると意識するべきではないかと思うのです。
私たちが何を選び、何を購入するのかによって、これまで見ていなかった生産地の方々の幸せに繋がるのです。
バングラディシュには、劣悪な労働環境とはかけ離れたフェアトレードの工場も多数存在しています。 安心・安全な環境で、正当な賃金が支払われているのがフェアトレードです。ファストファッションの縫製工場もフェアトレードの工場へと移行していき、その結果、バングラディシュにフェアトレードの工場が増えていくことを願い、活動を行っています。
原田さとみさんの活動転機(3)
2015年から「倫理的消費(エシカル消費)」が消費者庁の消費者基本計画に加えられました。人や社会環境に配慮した消費行動を勧めるものです。「エシカル」という言葉は、企業やコンビニでも使用されるようになっています。
開発途上国の生産者と先進国の消費者が結び付くことが大切です。そのためには製品の製造背景を知ることが重要であると気付いたことで、フェアトレードへの関心も高まってきました。
「エシカル」という言葉を、消費者庁が責任を持って発信してくださるようになったので、心強かったです。 「未来を選択する賢い消費をしましょう」ということで、エシカル消費が用いられました。
日本で広がる「エシカル」と「エシカル提案」イベントの開催
私(原田さとみ)は、名古屋市で2011年から毎年開催されている「エシカルでいきましょ!」というイベントも推進しています。開催場所は、白鳥庭園というオーガニック庭園です。
名古屋は「生物多様性条約 第10回締約国会議(COP10)」の開催をはじめ、環境配慮に力を入れている都市です。
「エシカルでいきましょ!」も環境と未来を考えながらスタートしました。その関連で新聞の取材等も受けています。
また、2009年からはファッションを取り入れた「FAIR TRADE COLLEGE(フェアトレード・カレッジ)」というイベントも実施。
このイベントの誕生した背景には、私がお洋服屋さんを営んでいることと、モデル経験があることが関係しています。ファッションショーで観てもらうということが得意分野だからです。
コレクションを発表する際には、お店や路地裏やミュージアム等でファッションショーを開催してきました。生演奏の音楽を奏でながら観てもらうのです。
ファッションショーには人を惹きつける力がありますし、総合芸術の要素も持っています。皆さんにワクワク・ドキドキしながら観ていただくことが可能です。
フェアトレードやエシカルの理念を広めるために、ファッションショーはとても有効な方法だと思っています。皆さんに、楽しみながらフェアトレードやエシカルに対する理解を深めていただくことができるのです。
モデルにお仕事の機会を提供することも徹底しています。現在はモデルのお仕事も減少しているのです。モデルのお仕事をしていただき、きちんとした対価をお支払いする場になることも願っています。
そのため、イベントではしっかりとお金を集めて、しっかりと出演者にお支払いができるシステムを作りました。このような思考も、フェアトレードを考えるうえで重要だと考えています。
高校生や大学生とのコラボレーションはとても大事だと思っています。
高校のファッション科の生徒さんたちとのコラボレーション事例をご紹介します。
企業からフェアトレードのコットンを提供していただき、生徒さんたちが製作したお洋服(ブラウス)でイベントに参加してもらいました。提供していただいたのは、インド産のオーガニック・コットンです。
このような機会を通じて、「エシカル・ファッションを推進したい!」という気持ちを持っていただけたらと思っています。
お店でエシカル商品を提案する「フェアトレードタウン」とは?
エシカルな商品を取り扱い、お店の存在を認識していただくためにはどうすればいいかでお悩みでしたら、「フェアトレードタウン運動」が役立ちます。店舗の応援にも繋がる運動です。
フェアトレードタウン運動とは、2000年にイギリスの小さな街から始まった運動です。現在、世界中で2,000ヶ所ほどのフェアトレードタウンが存在しています。
フェアトレードタウンとは、市民・企業・商店・教育機関・行政等が一体となりフェアトレードの輪を広げ、「まちぐるみ」でフェアトレードを推進する地域のこと。行政がフェアトレードを推進することを公式に認証されます。フェアトレードタウンには、行政や教育機関、フェアトレード商品を取り扱うショップ等の存在が重要です。
日本でフェアトレードタウンとして認定されている街は、現在6ヶ所(熊本市、名古屋市、逗子市、浜松市、札幌市、いなべ市)あります。フェアトレードタウンを目指している街は約30ヶ所です。
フェアトレードタウンの認定基準は全部で6項目です。
①推進組織の設立と支持層の拡大
仲間と一緒にフェアトレードを広げる団体を立ち上げよう!
②運動の展開と市民の啓発
フェアトレードをまちのみんなに知ってもらおう!
③地域社会への浸透
学校や職場でフェアトレード商品を取り入れよう!
④地域活性化への貢献
地元のみなさんと一緒にまちを盛り上げよう!
⑤地域の店(商業施設)によるフェアトレード商品の幅広い提供
フェアトレード商品が買えるお店を増やそう!
⑥自治体によるフェアトレードの支持と普及
自治体にフェアトレードを応援してもらおう!
この中で基準⑤に注目してください。1万人に1店舗、フェアトレード商品が買えるお店がカウントされる必要があります。例えば、名古屋は232万人都市なので、232店舗以上のフェアトレード商品取り扱い店舗が必要です。
だからといって、フェアトレード専門店である必要はありません。フェアトレード取り扱い店舗の条件は、2品以上のフェアトレード商品を販売することです。コーヒーとチョコレート、コーヒーとコットン類、チョコレートと砂糖といった組み合わせ等でOK。
家具屋さんがフェアトレードの文具を取り扱うといったように、そのお店に合ったフェアトレード産品を選んで置いていただくことができます。
フェアトレードタウンは3年ごとに更新(認定)されます。その都度、フェアトレード取り扱い店舗数をカウントし直すのです。フェアトレード商品を扱う店舗には増減があるため、認定を維持するために努力が必要となります。フェアトレードタウンを推進している地域の方々は、フェアトレード商品を取り扱ってくれるお店を探しています。
フェアトレード商品を扱うショップを運営されている方は、フェアトレードタウン運動を推進している地域で運動されている人たちと連携していただきたいです。共同でフェアトレードやエシカルのイベントやアクション、セミナー等を行うことで、フェアトレードのショップが増加していきます。ここに繋がりが生まれて、好循環へと向かっていくのが理想です。
もしも、すでにフェアトレード商品を2品以上取り扱われているお店の方が手をあげてくださると、大変喜ばれると思います。一緒に応援もできます。
街ぐるみで積極的にフェアトレードを推進している事例
◆名古屋市のフェアトレードに対する取り組み
名古屋市は2015年にフェアトレードタウンとして認定されました。
名古屋は「国際フェアトレードタウンなごや宣言」をしています。その一部をご紹介します。
その理念は、環境・貧困・人権・平和・開発など地球規模の課題解決に貢献するとともに、わたしたちの暮らしを見つめ直し、交流の促進や賑わいの創出にもつながるものと考えます。
フェアトレードタウンとなった名古屋市では、市民一人ひとりの買い物を通じて、”地球とのフェアトレード”により、まちぐるみでフェアトレードを推進し、地域の絆を深めます。
引用元:国際フェアトレードタウンなごや宣言
この宣言は途上国に対するフェアトレードはもちろんのこと、海外から入って来る製品にはフェアトレードを優先するというものです。それだけではありません。地域内でのフェアトレードも大切に考えて実践することで、絆が深まるので市民にとっても大切な宣言となっています。
宣言に盛り込まれた「地球とのフェアトレード」とは次のような意味です。
①途上国に対して:本来の意義であるフェアトレード。
②地域に対して:自分たちの足元にある地域の課題解決。例えば、昔は賑わった商店街に活気を取り戻すことも地域貢献です。
③自然に対して:自然環境への配慮、生物多様性の保護。自然に対してもフェアであるかどうか。お金でやり取りするモノ以外にも、地球の恵み(空気、水、土等)があります。次の世代に受け渡すことができる健全な自然を残し、生物多様性の保護も大事です。
こういったことが、“地球とのフェアトレード”に含まれている概念になります。
名古屋市のフェアトレードタウンの窓口は環境局です。環境局が市民とともに一生懸命にフェアトレードの推進をしてくださっています。
名古屋市観光文化交流局もフェアトレード取り扱い店が掲載された「フェアトレードタウンなごや観光魅力マップ」を作成し、観光・文化面でサポートしてくださっています。
名古屋市環境局が主催する「環境デーなごや」では、秋のフェアトレードタウンまつりの一部にフェアトレードエリアを設置。ファッションショーや学生さんによる発表、マルシェができたりしています。フェアトレード商品の取り扱い店は、優先的に出展可能です。
名古屋市では税金を使用して購入する物品も、少しずつフェアトレードに変えていっています。名古屋市が公共調達する物品は、入札により安さ優先で購入されていました。しかし、環境局は本来そうであってはいけません。環境に配慮した素材調達を行うべきですし、人を傷つけてまで安く生産した製品もNGのはずです。
そこで、名古屋市は2021年4月から「名古屋市グリーン購入ガイドライン」を導入しました。そこに、フェアトレードに関する記述が盛り込まれたのです。安さが優先される公共調達においても、「制服・作業服」「帽子」「食堂で使用する食材等」にフェアトレードが奨励されるようになりました。
現在、環境局のユニフォーム(帽子、上着、ズボン)は、国際フェアトレード認証コットンラベル入りです。この動きは、全国に先駆けた取り組みだと思います。
◆名古屋市のフェアトレード商品取り扱い店の好事例
自然食品(マクロビオティック食品)で有名なお店「ヘルシングあい」のご紹介です。「ヘルシングあい」では、常時売り場の一角にフェアトレードのアクセサリーやバッグ、衣類を置いています。
その他、衣類メーカーから委託でフェアトレード商品を借りて、期間限定で取り扱い数を増やすこともありました。このような取り組みは、自然食品の購入目的で来店したお客様にも喜ばれます。
常時、フェアトレード商品を取り扱うことで、お客様から「色違いが欲しい」「長袖はありませんか?」といった要望が入ることもあるのです。
フェアトレード商品を少量でも取り扱うことは、フェアトレードを応援しているといったアピールになるだけでなく、お客様に喜んでいただくことにも繋がっています。
フェアトレードをきっかけに広がる地域交流イベント
自分たちが取り組み、盛り上げることのできる「フェアトレード推進イベント」も、エシカルが浸透するキッカケになります。
私(原田さとみ)が携わった大きなイベントには、協賛を集めてのファッションショー等があります。フェアトレードタウンに向けて様々なイベントを積極的に行ってきました。その経験からご紹介します。
エシカルを盛り上げるイベントで大切なポイントは、次の3点です。
①生き生きとした人のいる場所には、多くの人が集まるということ。
②美味しいは重要であるということ。
③「ビッグ・テント・アプローチ」という考え方。
「ビッグ・テント・アプローチ」とはフェアトレードの運動から生じた言葉で、フェアトレードラベルに限らず多様なフェアトレードの在り方を包み込む「大きなテント」方式のこと。センターにフェアトレードという大きな柱を据えて、巨大なテントを張るイメージです。
テントの中には、どのような団体でも、どのような人たちでも、何を得意としている人でも入ることができます。互いに助け合いながら成長するためには、多様であることが大切です。
このような活動を通じてフェアトレードは国境を越えて広がり、さらには身近な地域内を大事にしていくことにもなります。地域内のフェアトレード、流域内のフェアトレード等もその例です。
「ビッグ・テント・アプローチ」は、フェアトレードやエシカルに関心がある人たちが、手を取り合って一緒に活動していこうという考え方です。
例えば、イベントとしてマルシェを開催する際に、フェアトレード商品を扱っていない方が参加を希望したとします。この場合、「砂糖をフェアトレードに替えてみませんか?」「バナナをフェアトレードにしてみませんか?」等と呼びかけることで、フェアトレードの仲間を増やしていくことが可能です。
実際、イベントを通じてフェアトレードの仲間になった方々が、どんどん力を付けていき、現在ではデパートで販売できるようになった方々もいらっしゃいます。フェアトレードが、一般の消費者に繋がるようになったのです。
名古屋三越栄店の7階を借りて開催した「世界と日本のフェアトレード」も、昔自力で開催した催事のひとつ。衣類や食品、地域内フェアトレードまで様々なフェアトレード商品を取り扱いました。
「やさしい暮らし展」は、名古屋高島屋が開催している大きくて人気のあるイベントです。「フェアトレードタウンなごや」のエリアを設けてくださっています。
フェアトレード商品には衣類や雑貨類が多いのですが、地域の食べ物の取り扱いも大事です。
地域の美味しいものは、人を惹きつけます。地産地消の産品で作る日替わりランチ等はとっても魅力的。安心・安全な方法で作られた、地域の丁寧なものづくりの食材を活かすこともできます。地域の美味しい食材を食べながら、フェアトレードの雑貨や衣類を見てもらうことも可能です。
フェアトレードタウン ⇔ SDGs ⇔エシカル
フェアトレードタウンやエシカルに、SDGs(持続可能な開発目標)は欠かせません。
フェアトレードには、SDGsの12番「つくる責任 つかう責任」が特に関係していると言われています。
しかし、SDGsの17項目の全てが関係しているのが「フェアトレードタウン運動」であり「エシカル」です。
お店が健全に営業できることは、街の経済であり、住みやすさでもあります。SDGsの6番「安全な水とトイレを世界中に」、8番「働きがいも経済成長も」、9番「産業と技術革新の基礎をつくろう」と関連します。
途上国の貧困削減や誰もが食べられるようにというのは、1番「貧困をなくそう」と2番「飢餓をゼロに」だけでなく、17番「パートナーシップで目標を達成しよう」も関係します。
フェアトレードショップの方にとって大事なのは、12番「つくる責任 つかう責任」です。消費者にとっては、責任ある消費が大切になります。責任ある販売は、お店でモノを売る上で未来を左右する作業です。何をセレクトし、何を売るのかによって、消費者の手に届くモノが変わり、そして未来が変わっていきます。
フェアトレード商品やエシカルな理念の商品を店頭に並べていただけるように、商品を作る事業者も頑張っています。販売するお店の方々にも、「売れないからフェアトレード商品を扱わない」ではなく、売れるように工夫する等、少しずつでもいいので協力していただきたいです。こういった努力が責任ある消費に繋がります。
フェアトレードを始める際に、専門店になる必要はありません。「ちょっとフェアトレード、ちょっとエシカル」でいいのです。ハードルが下がることでお店の方が取り組みやすくなり、消費者の手に届く場所にフェアトレード商品が置かれることに繋がるのですから。
動画で振り返る!原田さとみさんと一緒に考えるエシカル
原田さとみ さん
原田 さとみ さん
環境・人・社会に配慮した”思いやり”のエシカル理念普及とともに、貧困削減・環境保護・地域貢献につながるフェアトレードを推進。
モデルデビュー後、東海圏を中心にタレントとして活動。パリ在住を経て、名古屋にて洋服のお店を経営。その後、フェアトレード・エシカル商品の輸入・販売、イベント企画運営を行う「エシカル・ペネロープ株式会社」を設立し、名古屋テレビ塔1階にフェアトレード&エシカル・ファッションのセレクトショップ「エシカル・ペネロープ 」オープン(2018年12月閉店)。
倫理的な価値を持ち、環境に配慮した持続可能な、地球・人・社会に優しいエシカル・ファッションとフェアトレードの普及活動を行い、まちぐるみでフェアトレードを推進し、まちづくり・人づくりとなる国際協力・地域貢献であるフェアトレードタウン運動を名古屋にて展開。
エシカル・ペネロープ株式会社 代表取締役
一般社団法人 日本フェアトレード・フォーラム(FTFJ)代表理事
NPO法人フェアトレード名古屋ネットワーク(FTNN)理事
一般社団法人 日本エシカル推進協議会(JEI) 理事
JICA中部オフィシャルサポーター
原田さとみ氏ブログ「エシカルでいきましょ。」プロフィールより引用