ヨルダンのワイン、と聞いてどんな味を思い浮かべますか?
多くの人にとって、砂漠やオリーブのイメージはあっても、ワインの国という印象は薄いかもしれません。そんな常識を覆しているのが、1996年創業の家族経営ワイナリー「ズーモット(Zumot Winery)」です。
彼らは、従来ヨルダンでは育たないとされてきたブドウ品種を、オーガニックの考え方で栽培。古くからある在来品種と国際的なブドウを掛け合わせ、独特の風味と品質を生み出しています。
添加物を極力使わず、自然の力に委ねた醸造法で、一本一本に土地の息づかいを感じさせる仕上がりです。ブランド名の「セント・ジョージ」は、マダバの聖ジョージ教会に由来しており、伝統と信仰の地から世界に挑む象徴でもあります。
今回は、そのズーモットの中から3本、「セント・ジョージ カベルネ・ソーヴィニヨン」「ワイン・メーカーズ・セレクション トウリガ・ナショナル」「アラック・アル・ズーモット」を実際に飲んでみました。どれもヨルダンの自然と人の情熱が詰まった印象的な味わいでした。
目次
深みがあるのに、するっと飲める ― セント・ジョージ カベルネ・ソーヴィニヨン 2018
このカベルネ・ソーヴィニヨン、正直ちょっと驚きました。


ヨルダンのワインってどんな味なんだろうと半信半疑で開けたのですが、グラスに注いだ瞬間からベリー系の香りが広がって、思わず「おっ」と声が出るほど。少し時間が経つとバニラっぽい甘い香りも顔を出してきて、香りだけでも楽しめます。

飲んでみると、果実味がしっかりしているのに、口当たりがまろやか。タンニンは感じるけど、ギスギスしていなくて、むしろ優しい印象です。後味にはほんのりチョコレートのような深みが残って、思わずもう一口飲みたくなる感じ。重たすぎず、でも軽くもない、絶妙なバランスが心地いいです。
食事はローストビーフやラムチョップのような肉料理がぴったり。香ばしさとワインの果実味がちょうど合わさって、口の中でふわっと広がります。
「しっかりした赤が飲みたいけど、堅苦しくないものを」という日にぴったり。ヨルダンの大地から来たとは思えないほど、優しく寄り添ってくれる一本でした。
[掲載商品]セント・ジョージ カベルネ・ソーヴィニヨン 2018
スパイス香る、ちょっとエキゾチックな赤 ― ワイン・メーカーズ・セレクション トウリガ・ナショナル
このワイン、ひと口飲んだ瞬間に印象がガラッと変わりました。


「ヨルダンの赤ワインって、こんなに力強いの?」と驚くほど、味に厚みがあるんです。グラスからはベリー系の甘い香りが立ちのぼり、そこに少しスパイシーな香りが混ざって、どこか異国の雰囲気を感じさせます。

飲んでみると、果実の濃さがしっかり伝わってきて、口の中でじんわりと広がるような感覚が残ります。渋みはあるけれど角がなく、どこか柔らかさを感じます。それでいて、ボトルの底にはタンニンのおりが溜まっているほど濃厚。見た目からも「これは本気で造られた赤なんだな」と感じます。
料理は、スパイスを使ったチキンや、トマト煮込みなんかと抜群に合います。食事と一緒に飲むと、ワインの奥行きが一段と引き立ち、まるで地中海沿いのレストランにいるような気分。
飲むほどに味が変わっていく、ちょっとクセになるヨルダンの赤でした。
[掲載商品]ワイン・メーカーズ・セレクション トウリガ・ナショナル
白く変わる瞬間が楽しい ― アラック・アル・ズーモット
ワインの後に飲んでみたのが、この「アラック・アル・ズーモット」です。


アラックはヨルダンの伝統的なお酒で、ワインを蒸留してアニス(ハーブの一種)を加えたスピリッツ。アルコール度数はなんと52%もあって、正直ちょっと構えました。
グラスに注ぐと、ふわっとハーブと甘い香りが広がります。香りだけでも癒される感じです。

そして、このお酒の一番の見どころはウーゾ効果。透明な液体に水を加えると、スーッと白く濁っていくんです。まるで魔法みたいで、思わず動画を撮ってしまいました(今回は氷の中にアラックを注いでいます)。味もその変化と一緒にやわらかくなって、香りがよりまろやかに感じられます。



味わいはすっきりしているけれど、ハーブの香りがしっかりしていて、どこか地中海の海辺で飲むリキュールのよう。オリーブやナッツ、チーズなど塩気のあるおつまみと相性が良く、食後にゆっくり飲むのにもぴったりです。
ワインの産地として知られ始めたヨルダンが、こんな上質なスピリッツまで造っているとは驚きです。香りを楽しみながら、変化を眺める時間そのものがちょっと贅沢に感じられる一杯でした。
[掲載商品]アラック・アル・ズーモット
ヨルダンの大地が教えてくれる、自然と人の共鳴
ズーモットのワインやアラックを飲んで感じたのは、「この土地の力強さと、造り手のまっすぐな情熱」。乾いた大地で、あえて育ちにくいブドウに挑む姿勢。その試みが実を結び、ヨルダンの自然と伝統をボトルの中に閉じ込めています。
一見エキゾチックに思えても、飲むほどに素直で優しい味わい。自然と共に生きるワイナリーだからこそ生まれる、心地よい余韻がありました。ワイン好きならもちろん、旅する気分で新しい一杯を探している人にも、ぜひ手に取ってほしいシリーズです。
(写真・文:染谷昌利)




